第53話……捕虜の証言!?

 両軍が要塞都市サラマンダーで攻防戦をしている頃。

 私は交易都市アマツの攻略を命じられていた。


「出立!」


 ラゲタに防衛の兵を残し、率いる兵は約六千。

 パン伯爵を副将に据え、海岸沿いを西へ西へと進軍したのであった。


「敵は出てきますかな?」


 スタロンがそう聞いてくる。

 商国のこの地方の戦線は崩壊しており、組織的な迎撃の可能性は低いと考えられていた。

 だが、交易都市アマツには城壁をはじめとした防御施設はなく、敵側がとりうる有効な戦術は限られていた。


「警戒を怠るなよ!」


「はっ」


 私は海側に輜重隊、その次に下級指揮官である騎士隊、もっとも外側に傭兵部隊を配置し、敵の襲撃に備える行軍隊形としていた。

 特に夜の警戒は厳重にし、篝火を沢山焚いて敵の夜襲に備えたのであった。


「幕舎を畳め、進軍するぞ!」


「はっ!」


 ラゲタを出発して4日目の夕方。

 我々はアマツの防衛部隊と遭遇したのであった。




◇◇◇◇◇


 アマツの街並みを背に、敵兵約500名が陣を敷いていた。

 戦力比率が六千対五百では話にならない。

 私は敵軍に降伏を促すことにした。


「そのような寡兵では勝負にならぬ。そうそうに降伏せい!」


「五月蠅いわ! 東の蛮族に降伏する者なぞおらんわ!」


 だが、敵の戦意は旺盛。

 いや、この場合は蛮勇と言うべきかもしれない。



「やむを得ぬ。掛かれ!」


 私は攻撃を命令。

 突撃の合図である銅鑼が鳴らされ、騎乗の騎士を中心に突撃。

 その威容を見て、敵方の歩兵部隊はあっという間に逃散してしまった。


「掛かれ!」

「恩賞は思いのままぞ!」


 戦場に踏みとどまる支配層の騎士達。

 彼等はあっという間に我が方に包囲され、残らず捕虜となったのであった。




◇◇◇◇◇


「アマツへの攻撃は明日にする。各隊キャンプの用意をしろ」


「はっ」


 そう命令し、各隊が幕舎を張った頃。

 スタロンが息を切らし、凄い血相でやってきた。


「どうした? 敵か?」


「いえ、敵の捕虜の尋問により、火急の事態が!」


「なんだ?」


「……そ、それが。話によると、共和国が東より我が国へ攻めて来るとの情報が!」


「なんだと!?」


 フレッチャー共和国と我が国は不戦協定が結ばれていたため、留守居の部隊はほとんど残されていない。

 この情報が本当であれば、とんでもない事であった。


「すぐにその捕虜を連れてこい!」


「はっ」


 捕虜は急ぎ引き立てられ、私の元へと連れてこられた。

 普通の騎士にしては身なりが良い、男爵といったところだろう。


「フレッチャー共和国の侵攻、本当のことか!?」


 そう聞くと、捕虜はにやりと笑う。


「うはは、本当かどうかは自分で確かめたらどうだ? 悪戯に迷う時間の分だけ、貴様等の領地が火に包まれるだけだ!」


「……くっ」


 嫌なこというやつだ。

 まぁ敵なので、そういうものであるのだが……。



「将軍、どうなさいますか?」


 アーデルハイトが急かすように聞いてくる。

 共和国の侵攻劇、もし本当ならば、きっと商国が糸を引いているに違いない。


 ……だがこの話、本当なのだろうか?

 この捕虜の話が、真っ赤な嘘と言うことも十分に考えられることであった。


「アーデルハイト! 皆を集めよ。軍議を開く!」


「はっ!」


 私はパン伯爵や旧臣たちを集め、軍議を開くことにしたのであった。




◇◇◇◇◇


 オーウェン連合王国リルバーン家本営。

 テーブルに燭台が置かれ、周辺地域の地図が広げられていた。


「……し、しかし、虚報ならば、我々はアマツを放棄することになりますぞ!」


 こう発言したのはモルトケ。

 旧臣たちを代表した意見であった。


 この世界の軍隊はいわば夜盗の群れ。

 占領地の略奪は当然の戦利品なのである。


 目と鼻の先にあるアマツは豊かな交易都市。

 その戦利品は誰の目から見ても莫大なものになるはずであった。


「まずは確認のための急使を!」


「それはすでに出してある。だがそれを待っていては、被害が拡大しかねんということだ!」


 しかも、我がリルバーン家は東の果て。

 共和国からの攻勢を真っ先に受ける地であったのだ。


 さらに言えば、王国の首都シャンプールも支配地全体から見れば東端。

 戦略的に見ても、使者の帰るのをただ待つわけにはいかないと考えられたのだ。



「軍を半分に分けては?」


 こう提案したのはアーデルハイト。

 しかし、旧臣たちが異を唱えた。


「軍を分けるなど、愚の骨頂! 戦力の集中投入こそ戦略の全てですぞ!」


 ……、まぁそうなのだけどな。

 そうできる時だけでもないわけで……。

 不明瞭な情報の中での決断こそ、指揮官の本領であったのだ。



「よし、軍を二手に分ける!」


「はっ」


「パン伯爵を主力として4000名をアマツ攻略部隊とする。私が率いる2000名は急ぎ海路を確保し、撤退する」


「ははっ」


 この命令に真っ先に従ってくれたのは、副将格のパン伯爵。

 皆の異論を封殺する行動であった。


 ……やはり、ヤツはできる男だ。


「……では、引くぞ!」


「はっ」


 パン伯爵の領地は、王国の支配地でも西側。

 すぐに戦火が及ぶ地ではないとの、私の判断であった。


 私が率いたリルバーン家の主力部隊はラゲタへと帰投。

 急ぎ船を調達し、海路から急いでエウロパの港を目指したのだった。

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