第40話……収穫祭と卵

「今回の勲功第一は、客将のリルバーン殿じゃ!」


「はっ」


 私はケード連盟の家臣が居並ぶ中、論功行賞で一位を獲得した。

 ケードの当主から直筆の感状を頂く。

 これは今回の功績を証明してもらう証書のようなものだ。


「これを機に反乱勢力を一掃するぞ。次の目標はベンソン城だ! リルバーン殿の奮闘を期待するぞ!」


 ……ぇ?

 次も強制参加なの?


 アイアースも当然だろと言わんばかりに、イカツイ顔がニコニコ笑っている。

 まぁ、これも親善の一環か。


 私はその後の軍議にも参加。

 アイアースの麾下として作戦に次々に参戦した。

 結果として、3つの城と8つの砦の攻略に貢献したのであった。


 これによりケード連盟は、南ネヴィル地方の反乱勢力を一掃。

 その支配地域の西端は、ガーランド商国に隣接するまでに広がったのであった。




◇◇◇◇◇


「まぁ飲まれよ!」


「頂きまする」


 私はイオ達と共にケードの本拠地に帰還。

 領主館での祝勝会に出席していた。

 ケードは戦の強さに自信があるらしく、本拠地に城を持たないという強気さであった。


「お主のお陰で、わしも命拾いした。礼を言うぞ!」


 ニコニコ顔のアイアースに葡萄酒を注がれる。


「まぁ、お互い様と言うことで!」


 今回、イオにはだいぶ退屈させたと思ったのだが、フィー姫と楽しくやっていた様で安心する。



「今日は機嫌が良い。シンカー、何かとらすぞ!」


 宴席での最中、ケードの当主のドンにそう持ち掛けられる。

 先日までの反乱鎮圧の功で、ドラゴネットを50頭ほど褒美で頂いていたのだが、ご褒美は機嫌がいい時にねだるのが常道であった。


「さすれば、例の魔物の卵を頂戴したいのです」


「ほう? そのようなものがいいのか?」


 反乱側の貴族が持っていた魔物の卵。

 孵化した時に見たものを親と認識する為に、ペット用として魔物の卵は珍重されていたのだ。


「このような物、いくらでもくれてやるわ!」


 半ば投げやりな感じで頂いた卵。

 実は、これを欲しがっていたのはポコリナだった。


 彼女は魔物のお友達が欲しいのだろうか。

 すでに卵の段階で、ポコリナと同じほどの大きさがあったのだが。

 もし凶悪な魔物だったらどうしようと不安がよぎる。


 宴の料理は、川魚や山菜の珍味の天ぷらが主役でヘルシーであった。

 豪華さは無いが、山国で武骨の風情が漂う素敵な味付けであった。




◇◇◇◇◇


「また、来いよなぁ!」


「はい!」


 私はアイアースなどの将に見送られ、ケードの地を立った。

 傭兵輸出業で名高いケードに、逆に傭兵として仕事した私はとても珍しい存在だろう。

 馬車にもいろいろとお土産が満載で、かなり楽しい経験となったのであった。


 帰り道は思ったより快適で、野越え山越え、馬車は進んだ。

 途中で魔物にも襲われたが、無事に返り討ちに出来た。


 しかし、国境を越え、旧臣たちの領地に入った頃になると、レーベの街の方角に見慣れぬ巨大建築が見えた。



「……ねぇ、あれは何だろう?」


「お前様、以前にお城を作る様に命じていたのでは?」


 イオにそう言われ、思い出した。

 ……おお、でっかいお城だ。

 改めて見ても、田舎にしては場違いな建築物であった。


 私達は有難いことに無事に、そして久しぶりにレーベの地へと帰り着いたのであった。




◇◇◇◇◇


 統一歴564年9月――。

 この年の収穫祭は、新居の大広間で祝った。


 いわゆるレーベの新城郭である。

 細かいところは未だに工事をしているが、旧臣たちの縁者も招いて大々的な落成式典を催したのだった。


「いやあ、ご領主様。立派になられて!」


「お褒め頂き感謝です」


 新城郭の威容は、分かりやすく効果を現した。

 いままで私を領主と認めない、古老系の旧臣までもが私におべっかを使ったのだ。

 確かに、見た目だけでも効果は十分と言えた。


 他にメリットと言えば、城がないとして田舎扱されてきたレーベの住民たちの好感度も良く、街のシンボルとして愛されそうな雰囲気だったのだ。



「今年の収穫に乾杯!」


「乾杯!」


 私は今年の収穫祭には、堂々と主催者として挨拶をした。

 なかなかに出自がわるいと苦労するものである。


 このお祭りの日ばかりは、領民総出で貴重品の羊肉などを焼いて祝った。

 新しい城の効果もあり、多少も町は観光客でにぎわったのだった。




◇◇◇◇◇


「ポコ~♪」


 ポコリナはケードで貰った魔物の卵を毎日温めている。

 母性本能なのか、最近少しピリピリさを感じるくらい卵にご執心だ。



「おお!」


 そしてついに孵化の時。

 ポコリナの前に姿を現したのは、岩の魔物であるゴーレムだった。


 ゴーレムにしてはピカピカしているので、アリアス老人に見せたところ、これは希少なミスリルゴーレムとの事。


 ……いや、希少だと言っても、あんまり可愛くないのだが。

 むしろ赤子なのに、風貌が怖い。



「ポコ~♪」


「お前様、でもポコリナは気に入っているようですよ」


 イオはそう言うが、赤子の状態ですら結構でかいのに、大きくなったらどうなるんだろう、これ……。

 まさか、新築のレーベ城とか壊されないよね?


「この子、餌は何を食べるの?」


「さあて、人間がミスリルゴーレムを飼育したという例は、未だ聞いたことがありませんでな」


 アリアス老人がまるで他人事なことを言う。

 翌日になってわかったのだったが、この魔物は雑食性だった。



「ポコ~♪」


 翌日からポコリナが、甲斐甲斐しく外で虫などを採ってきて食べさせている。

 が、当然に足らないので、雑穀やらなんやらも食べさせることにしたのであった。

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