第39話……アガートラム城での死闘!

「ポコ~♪」


 城壁を登り切ったあたりで、背負い袋の中からポコリナが姿を現す。

 彼女は早速、私に気配を消す魔法を使った。


「こっちだ!」


 私に指揮権は無いが、奇襲部隊の傭兵達を導く。

 目指すは城壁の防御の要、石で作られた防衛塔の占拠だった。


 ……ん?

 おかしい。


 私は異変に気付く。

 豪雨の中の闇夜で、何故こんなに視界が明るいのだ?


 空は真っ黒なのに、まるで月明かりに照らされるように視界が開けていたのだ。


 そんな時、ポコリナと目が合う。

 彼女の眼には、くっきりと紅い魔法の紋が見えた。


 ……そうだ、この紅い紋章、見たことがあるぞ。

 たしか先日の私にもあったはずだ。


 この視野、もしや魔法の力か?

 半信半疑の中、私は城壁の上を走った。


 やはり私だけだ。

 他の者は闇夜の高所で視野が効かず、誰もついてこなかった。

 否、ポコリナだけが付いてきた。


 私は次々に見張りを切り倒し、高所にそびえる防衛塔へと近づく。


 倒した敵兵が持っていたロングボウに矢をつがえ、塔の上にいる兵士たちを次々に射倒した。

 人気がいなくなったのを確認し、防衛塔の内部の階段を登り切り、塔の上まで登った。



「何奴!?」


 防衛責任者と思しき騎士の咽喉に、素早く愛剣を突き立てる。

 鮮血が噴き出し、私の顔が真っ赤に染まる。

 返す刀で騎士の従者を切り倒し、私は防衛塔の占拠に成功したのだった。



「であえ! であえ!」


 流石にこの頃になると、奇襲隊の侵入を敵に気付かれるが、同時に敵は大混乱に陥ってしまっていた。



「明かりを掲げよ!」


 包囲している味方の陣地から、照明弾のような灯の魔法が打ちあがった。

 城の周囲が照らされると、今にも攻め掛かりそうな味方の備えが見える。



「掛かれ!」


 正面の大手門を中心に、味方の部隊が四方から城へ押し寄せた。

 銅鑼が鳴り響き、戦太鼓が連打される。


 周辺に勇猛として鳴り響く、ケード連盟の総攻撃だった。

 大手門には破城槌が持ち込まれるが、櫓からの敵の猛射撃に遭う。



「塔の占拠ご苦労!」


「はっ」


 私は急いでアイアース率いる奇襲隊の一部を塔に招き入れた。

 ここは高所で、城門や櫓を見下ろすことが出来たのだ。



「射すくめよ! 皆殺しじゃ!」


「おう!」


 すぐに我々は弓を構えて、城門を守る敵を射すくめた。

 矢の打ち合いにて高所の有利は絶対的だ。


 敵はこちらの位置を確認するもすぐに劣勢に陥る。

 城門を守る敵は次々に矢に当たり、城壁から倒れ、地面に落ちていったのだった。



「今じゃ! 押せ押せ!」


「おう!」


 敵の反撃が弱まったところで、味方の破城槌が城門を破壊。

 城内に味方が一斉に雪崩れ込んだ。


「掛かれ! 敵は皆殺しじゃ!」


 喚声とともに味方が、城内外郭の各所に乱入。

 各所に次々に火の手が上がった。

 だが、敵城の防御は何重にも施され、味方の攻勢は限定的にとどまる。



「よし、同胞! 次は宮殿だ!」


「……はっ?」


 アイアースの次の目標は、敵城本丸の宮殿にての敵要人確保だった。

 確かに、宮殿にて指揮官を打ち取れば、敵の反撃は潰えるに違いなかったのだ。


 私は、次から次へと敵を求めるアイアースという男に辟易するも、この電撃的な指揮ぶりに好感を持ったのだった。


「いくぞ!」


 アイアースは灯の魔法を確保。

 城壁上の狭い通路を通り、敵宮殿に一気に迫る。

 この早い動きに味方は付いていけず、アイアースに続くのは私だけとなっていた。


 ……!?


「危ない!」


 私は多数の狭間に構える敵の弩兵を確認。

 落ちていた盾を構え、アイアースの体を守った。


 暗闇に黒い矢が無数に飛んでくる。

 盾が比較的大きかったのが幸運だった。


 まるでハリネズミの様に盾に矢が刺さる。

 盾で防ぎきれなかった、私の腕や足にも矢が刺さった。



「……ぐぅ。いでぇ!」


 私は痛みを堪え、素早くアイアースと共に遮蔽物に隠れる。


「すまんな! 命拾いしたぞ!」


 彼はそう言い、私に刺さった矢を抜き、傷口に濃い酒を掛けた。

 さらに、傷口を簡易の治癒魔法が掛かった布で縛ってくれた。



「悪いが、先を急ぐぞ!」


 我々は弩兵が潜む狭間を迂回。

 素早く、屋根を破り宮殿の中へと侵入した。

 私達は敵の備えが整う前に、更に奥へ奥と進んだのだった。



「ここらあたりかの?」


 この城は、元はケードのモノだったらしい。

 改修が加えられてはいたが、アイアースは自分の家の如き速さで、迷宮のように入り組んだ廊下をすすんだ。


「ぐわっ! 何者!?」


 素早く衛兵を倒し、私たちはとある部屋に入った。

 そこには城主と思しき貴族が、メイドを控えさせ、寝巻のまま寛いでいた。



「……い、命ばかりは」


 こちらの姿を確認し、慌てて命乞いをする貴族。

 メイドたちは悲鳴を上げて逃げ散った。

 私は急いで彼を縛り上げ、猿轡を噛ませた。



「急げ、火をかけるぞ!」


 アイアースは燭台などを引き倒し、城主の居室に放火。

 各所を懸命に守る敵兵に、落城を悟らせたのだった。


 この宮殿の焼失に、敵兵の士気は急落。

 皆、武器を捨てて降伏したのであった。


 その後、味方は降伏した兵士を捕縛し連行。

 さらに各所で略奪が始まった。

 味方が放った火の手は城の隅々まで焼き尽くし、一夜で城は瓦礫の山と化したのだった。



「えいえい、おー!」


 味方が勝鬨を上げるころには、余が明け雨も上がり、雲の隙間から朝日が差し込んできたのであった。

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