第34話……シンカー将軍になる!

「急ぎ、女王様を守るのだ!」


 女王陛下という総大将の単独による前線突入により、両軍は良くも悪くも混乱した。

 一瞬の驚きによる混乱はすぐに収束。

 それにより、女王を守る王国軍側の必死さに、今まで優勢であった商国側が若干たじろぐ。


「女王陛下をお守りしろ!」


「掛かれ! 最高の手柄首ぞ!」


 敵槍兵が槍衾を作って並ぶも、女王陛下の護衛の姫騎士が突っ込み、突撃の為の血路を開く。

 落馬した姫騎士たちに欲望渦巻く雑兵が群がり、商国側の戦列の統率に乱れが出る。


「今だ、掛かれ!」


 そのどさくさ紛れに敵を突き破り、我々の部隊が女王陛下に追いつく。

 私は急いで陛下の馬の手綱を取るも、速度を落としては敵に利するだけだった。



「突っ込め! 正面を切り開け!」


 最早、後ろに逃げることは能わない。

 右も左も、そして後ろも敵だらけだ。

 逃げ道は正面しかなかった。


 私の率いる竜騎士隊は檄に従い、女王陛下を追い越し、次々に敵兵に突っ込んでいった。


「掛かれ!」


 竜騎士が乗るドラゴネットは、敵陣の馬を防ぐ柵を踏み砕き、それに乗る騎士が両手剣を振りまわし、敵兵たちを恐れ慄かせた。



「逃げろ!」


「待て! 逃げるな、この後ろは、お味方の本陣ぞ!」


 我々は敵の傭兵たちを蹴散らし、さらに装備が揃っている敵親衛隊にも突っ込んだ。


「なんだ、貴様等!」


 勝ち戦の最中、王国軍が突っ込んでくるとは思わなかったようで、敵は我々の突撃に慌てふためいた。

 その混乱に乗じ、敵の本陣に切り込む。

 そこには大きな幕舎が並び、糧秣なども積み上がっていた。



「かき回せ! 火を放て!」


 魔法を使える騎兵が、火魔法を幕舎に放つ。

 火の手があちこちから上がり、敵の混乱は極みに達した。


「ポコ~♪」


 女王陛下の護衛が一番優先だが、ポコリナが指し示した敵の文官に目が移る。

 戦場に文官、何奴だろう?

 私は他の者に護衛を任せ、文官らしき男に切りかかった。


 カン――。

 と甲高い音がし、私は男の剣を弾き飛ばした。

 更に顔面に蹴りを食らわせ、呻いているところを、襟をつかんで引きずった。



「……な、何をする?」


「ポコ~♪」


 引きずられ弱った文官に、ポコリナが睡眠の魔法をかける。

 眠ったところで、胴を抱えて攫ってやったのだった。


 女王自らの突撃で、戦況は一変。

 敵軍の中央部を混乱せしめ、戦線を大きく押し返すことに成功した。

 ただ、味方の損害も大きく、双方が戦場から後退したことで戦いは終わったのだった。




◇◇◇◇◇


 女王陛下の無事を確認した後。

 例の文官を縛ったまま自陣に帰り、アーデルハイトに出迎えられる。


「こやつは誰ですか?」


「さぁ?」


 眠りこける文官を、自分の幕舎に入れる。

 誰とも知れぬやつだが、身なりが良い。

 身分は上々、そこそこの身代金が期待できた。



「今回もようやってくれた」


 女王陛下の代わりに、老齢の侍従が陣中見舞いに来てくれた。

 が、侍従殿が例の文官を見るや素っ頓狂な声をあげた。


「……か、カン殿ではないか!?」


「え? 誰ですと?」


 ひょっとして味方を間違えて捕縛したか?


「伯爵殿! 誰ですと? ではございませぬぞ! このお方は敵国とはいえ、ガーランド商国の宰相殿でございますぞ!」


「……おう、では褒美が期待できますな!」


 そう言うと、侍従殿は顔を真っ赤にして怒った。


「だまらっしゃい! カン殿は周辺国にも聞こえた御人格と行政能力の主。いまのガーランドが大国になったのは、この方のお陰と言っても過言ではありません。うかつに扱っては我が国と商国が永遠に戦うことになるかもしれませんぞ!」


「……う、うん」


 ……うん。

 難しい外交の話とかもあるのかな?

 所詮、私は傭兵上がり。

 あまり責めないで欲しいものだ。



「……では、お縄をほどきましょう」


 文官殿の縄に刀を入れ、ザクっと切った。

 ……えーっと、あとは起こすだけだが。


 しまった!

 ポコリナがいない。

 私では起こす方法が分からないぞ!


「…………。ぶわっかもんがぁ~!」


 事情を話すとさらに侍従殿に怒られてしまった。

 まぁ、眠りの魔法の解呪は他の者でも出来るとの事。

 文官殿は後から来た兵士に担がれ、私の幕舎から運ばれていったのだった。



「なあ、スタロン。お前も知ってていたのか?」


 幕舎の外で、煙草をくわえていたスタロンに聞いてみるが、


「知るわけございやせん。拙者も傭兵上がりなんで……」


「……だよなぁ」


 だが、功は功。

 翌日、私は敵の副大将を召し取ったとして、金貨一万枚を下賜されたのだった。

 ……さらに、女王を戦場で補佐した功により、


「汝、シンカー=リルバーンは多大の功あり、よって将軍の称号を授ける!」


「有難き幸せ! 恐悦至極に存じまする!」


 将軍の称号を貰った。

 この称号、王国では一つの名誉称号みたいなものらしいが、一応こと軍事においては、王族にも一目置かれるらしい。

 ……ひょっとして、か、かねの方が良かったかな?




◇◇◇◇◇


「将軍! もう朝でございますぞ!」


 一昨日の実質上の勝ち戦で、私はスタロンと深夜まで飲んで寝入っていたのだ。


 ……ん、将軍?

 だれがだ?


 偉い将軍でも来たのか?

 慌てて起きてみると、起こしに来たのは親衛隊長のナタラージャであった。


「将軍、朝食の時間ですぞ!」


「……あ、ああ」


 ……将軍。

 馬鹿にしていたが、凄く良い響きじゃないか?


「もう一回呼んでみてくれ!」


「リルバーン将軍! 朝食ですぞ!」


 ……わはは!

 なんだか、急に偉くなった気がするぞ!

 その日の朝食は、何が出たのかさえ覚えていないが、人生で最高のモノだったと記憶している。

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