第32話……中州争奪戦!【前編】

 翌朝――。


「止まれ! 撤収するぞ!」

「撤収!」


 僅かに陽が昇ったところで追撃を停止。

 私は兵を纏め、戦後の作業に移行した。


「おーいこっちにもいるぞ」

「了解!」


 まず行うのは戦場の後片付けだ。

 無残に躯をさらす敵兵を埋葬。

 これをサボると伝染病のもととなるのだ。



「身代金は弾む、なんとか命ばかりはお助け下さい!」


 次に捕えた子爵との対面を行うが、弱気な男で気が抜けてしまった。

 爵位が高い者は身代金が高い。

 この男もきっと良いお金になるであろう。


「アーデルハイト、こいつに情報を吐かせた後。お金をしっかりせしめて来てくれ!」


「はっ、お任せを!」


「あとスタロン、兵を指揮して付け城を壊すのを開始してくれ」


「はっ」


 その他、こまごまとしたことを指示していくと、壊れかけたノイジー要塞から、守将のミエセス子爵がやってきた。



「おおう! 今回の解放の英雄もリルバーン伯爵様か!? この度の救出も御礼申し上げますぞ!」


 褐色の大男に恭しくお礼を言われ、なんだか恥ずかしくなる。


「リルバーン伯爵万歳!」


 ノイジー城塞に籠る兵士からも、解囲を祝う歓声が沸く。

 私はコメットの上で剣を高く掲げ、歓声に応えた。


「おっと、伯爵様になったから気安く声を掛けてはイカンかな?」


 褐色の大男が恥ずかしそうに頭をかく、


「いいじゃないか、戦友として酒を飲もうじゃないか! おい誰か、いい酒を持ってきてくれ!」


 私はその後、ミエセスと勝利を祝い、美味しい葡萄酒を酌み交わしたのであった。




◇◇◇◇◇


 私の兵もミエセス城塞の中に布陣。

 幕舎をたて、各自で寛ぐ時間を3日ほど過ごした頃。

 陸路から進んできたオーウェン連合王国軍の本隊が到着したのだった。


「クロック侯爵がお着きになりましたぞ!」


 私とミエセス子爵は、慌てて城塞を出て侯爵を出迎えた。

 本隊の兵士数は2万名を超えると思われ、その兵は長蛇を成していた。



「出迎えご苦労! 兵を休ませるので、案内を頼むぞ!」


「はっ」


 ノイジー城塞はさほど大きい拠点では無かったため、兵の全部は収容ができず、身分の低い傭兵たちは場外へ溢れた。

 そうこうするうちに、女王陛下をはじめとした後陣の部隊も到着。

 城塞内が急いで簡易に改修され、総司令部がおかれた。



「……では、会議を始める!」


 ノイジー要塞の作戦室で、作戦会議が開かれる。

 フィッシャー宮中伯が本国で留守居役だったので、進行役及び議長はオルコック将軍が務めた。


「敵の王城であるグスタフに迫る前に、どうしても落とさねばならない拠点。それが要塞都市サラマンダーだ。これを攻略するにあたって、我らはこの地点の中州に前線拠点を作る。この築城を担当するものを集いたい。我こそはという方はご挙手を!?」


「……ふむう、しかしのう……」

「う~む」


 歴戦の将軍たちがおし黙るのには理由があった。

 築城に適した中州は守るのに難しい平地であり、そんなところで築城作業をすれば、迎撃してきた敵相手に不利にならざるを得ないのだ。

 人選は難航を極めるかに思えた。



「皆がやらぬなら、小官が務めまする!」


 こう発言したのはクロック侯爵。

 我が王国軍の大元帥でもあった。


「ご無理をなさいますな!」

「左様、危のうございますぞ」


 クロック侯爵と近い貴族たちが止めに入る。

 それを手で制し、侯爵は机に地図を広げて発言を続けた。



「まぁまて、我が軍が中州にはいり、敵が迎撃に出たところを、待ち受けていた陛下が率いる本隊にて野戦にもちこむのだ」


「おお、それは良いですな!」

「賛成じゃ!」

「流石は大元帥殿! 我等とは頭の出来が違いますな!」


 この意見に多くの貴族達が賛成の意を表す。


「……ほかに、異議はござらぬか? ではそれで進めさせていただきます」


 その後の会議では、他に各方面の陽動担当など、細かい担当を割り振っていく。

 ……で、私はというと、



「リルバーン殿には総予備を担当して頂く」


「はっ」


 またもや私は後方待機だ。

 だが今回は、ノイジー要塞で戦ったので休養という面は大きいのだろう。

 そもそも戦地で兵を休ませておく時間を貰えるのは貴重なことだったのだ。


「……では皆様方、手はず通りに!」


「「女王陛下万歳!」」


 こうして作戦前段階での会議は終わったのだった。




◇◇◇◇◇


「進発!」


 クロック侯爵率いる先発隊およそ五千が出陣。

 例の中州がある地域へと進発した。

 その軍装は煌びやかで、王国軍の精鋭であることを現していた。



「全軍、進め!」


 それから二日後。

 満を持して、女王陛下率いる本隊が進発する。


 出てきた敵を待ち受けるべく矢を多めに準備。

 私の部隊も、本隊の最後尾を守りながらの進軍となったのだった。



「敵は出て参りましょうか?」


 進軍中にスタロンに聞かれるが、こればかりは敵になってみないとわからない。


 その後。

 途中の集落を掌握しながら進軍する。

 出発6日目には、例の中州がようやっと見える予定地の高地に、無事に着陣したのだった。



「ご報告いたします! クロック侯爵様の部隊、着工に取り掛かりました」


「うむ」


 ここまでは計算通り。


「……殿、雨が降ってきましたな」


 スタロンがそう言ったすぐ後。

 にわか雨は豪雨へと変化した。


「見張りの者をのこして、あとの者は雨を避けよ!」


 激しい雨はあっという間に体温を奪う。

 私も急ぎ幕舎へと避難したのであった。


 ……外には稲光と雷鳴が轟いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る