第31話……竜騎士隊の初陣!

 統一歴564年4月――。


「えっほえっほ!」

「それは右の窪地へ持って行け!」


 レーベの城の工事は鋭意継続中。

 濠を深く掘り、それで出た土砂で塀を作っていった。


「殿! 西進にかんして陛下より参内せよとの仰せが……!」


「もう来たのか?」


 報告を聞いたスタロンが困った顔をする。

 普通、戦とは農閑期にやることが多い。


 今は忙しい農村の民には期待できない。

 こういう時期の出兵は、領民たちの力を当てにできず、よって領主たちの財布をより厳しくしたのであった。


「……だが、陛下の仰せとなればむげには出来まい」


 多分、西進などクロック侯爵の取り巻きが考えたことだろうが、王宮としての命令となれば背くわけにはいかなかった。


「まぁ、明日にでも行ってくる!」


「はっ!」


 これにて会議は終了。

 護衛にはナタラージャを連れて行くことにし、他のメンバーは築城に力を注いでもらうことにしたのであった。




◇◇◇◇◇


「行くぞ!」


「はっ!」


 時間がもったいないので、今回はコメットに乗っての王都行きだ。

 今回は急ぎの行程とし、走りに走った結果、その日の晩には王都シャンプールに着いたのであった。


「いらっしゃいませ!」


 いつもの宿の裏の馬屋にコメットを繋ぎ、宿の食堂で夕飯をとる。


「今日のメニューは何だろう?」


 私が王都に来る楽しみは、この宿の美味しい料理を食べる事であった。

 葡萄酒を先に頼み、次にメニューを見せてもらう。



「子羊肉入りのリゾットを頼む」


「かしこまりました」


 明日の嫌な予定を頭から排除し、いまは大好きなお肉を味わったのであった。


「美味しいですね~♪」


 ナタラージャも美味しいご馳走にご機嫌だ。

 彼女にオヴの昔の勇姿を聞いたり、楽しい夕餉の時間を過ごしたのであった。




◇◇◇◇◇


 明朝、王宮の会議場。

 上座に王女陛下を頂き、西方のガーランド商国への遠征を話し合う場であった。


「……では、始める」


 宰相のフィッシャー宮中伯が開会の宣言をし、近衛隊長のオルコックが大きな地図が描かれた羊皮紙を広げた。

 宮中伯は西方侵攻の趣旨を説明。

 参加貴族の紹介が終わった後に、具体的な戦術面での方針を話し合った。



「……で、再びノイジー城塞が包囲されておる。これに援軍に向かう将は?」


「はい!」


 私はここぞとばかりに挙手。

 だれも立候補者がいなかったので、この任務は私に決まった。


 ここの城将ミエセスは既知の間柄。

 是非とも救援に行ってあげたかったのだ。


 今回の攻撃目標は、ガーランド商国の最大の要塞都市であるサラマンダーであった。

 これは過去幾度も我が方が攻撃するも攻略できない最大の障壁であった。


 そのため、これを攻略するべく恒久的な前線基地を築城する。

 これが今回の西方攻略作戦の最大の目標であったのだ。



「これにて決する! いざ先代からの野望を成し遂げようぞ!」


「「「応!」」」


 会議は終わり、貴族同士での懇親会が別室で開かれた。

 傭兵出身と侮られるのもあり、この手の会合は苦手なので早々に退出。

 ナタラージャを連れ、自領へと舞い戻ったのであった。




◇◇◇◇◇


「兵を集めよ、5月のはじめには出陣だ!」


「はっ!」


 私はレーベの館にて諸将に下知を飛ばす。

 海の衆の族長のロボスにも船の手配を頼み、各種荷造りも手配したのであった。


 諸将は常備兵でたりない分は、傭兵などを募兵。

 こうして、オーウェン連合王国全体で大動員体制が始まったのであった。



「帆を上げろ!」


 ノイジー要塞を早く救援すべく、今回の急行軍も海路を選択。


「錨を上げろ!」


 風向きも良く、出立5日目には、早くもノイジー要塞を囲む敵軍を捉えるに至ったのであった。




◇◇◇◇◇


 斥候でノイジー要塞を囲む敵の位置を把握。

 逆に敵の斥候は素早く捉えた。


「突撃!」


 戦術的に盲目状態の敵を夜襲。

 銅鑼が鳴り響き、戦太鼓が咆えた。


 私は本体の指揮をアーデルハイトに預け、直卒のドラゴンナイト50騎のみを率い、先頭に立って攻撃を掛けた。


「竜騎士だと? さてはケード連盟の者か? 奴らには勝てぬ、撤収しろ!」

「撤退だ、逃げろ!」


 私の親衛隊は、ナタラージャをはじめとした、元ケード連盟のオヴ配下の者たち。

 その雄姿は、遥か遠方の国々の者たちをも恐怖に落とし込んだのだった、


 意外なことに敵は夜襲に素早く反応。

 戦意が低いのもあって、逃げに徹してきた。


「邪魔だ、どけ!」


 コメットがその健脚で敵の歩兵を蹴散らし、その先を逃げる騎兵に追いつく。

 その中で、最も煌びやかな具足をつけた将に目をつけた。



「卑怯者! 名誉ある騎士なら逃げるな!」


「なんだと!?」


 意外なことに敵将と思しき者が挑発に引っかかり、馬首を翻してこっちへ向かってきた。


「子爵殿! なりませぬ、そのような挑発に引っかかっては!」


 警護の者たちが戻って来るが、時すでに遅し……。


「その首貰いうける!」


 私は愛剣を振り回し、子爵と思しき敵将を馬上から叩きおとした。



「掛かれ!」


 そして、引き返してきた護衛も、後から来たナタラージャ達に次々に打ち取られていった。


「縛り上げよ!」


「はっ!」


 私達は名のある敵将を捕縛。

 アーデルハイト率いる本隊は敵陣を焼き払い、敵を西側へと敗走せしめたのであった。

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