第18話……ノイジー城塞での戦い

「ご使者殿、いかがされた?」


「実はガーランドとの国境にあるノイジー城塞が包囲されたという知らせが! 子爵殿におかれては早船をお持ちのご様子。オルコック将軍から至急救援に向かって欲しいとのことです!」


「わかり申した! 今すぐ出立致しましょう!」


 私は使者を見送った後。

 海の衆に係争地へ向けて急行して欲しいと告げた。



「わかりましたぜ! まかしてくだせぇ!」


 海の衆はすんなりとこの頼みに応じてくれた。


「皆の者、急げや!」


「出航!」


 船団は急いで水を補給し、出航との手はずとなった。

 風向きは良く、帆は膨らみ。船は海を勢いよく疾駆していったのだった。




◇◇◇◇◇


 船団はソーク地方を西に抜け、ファーガソン地方の海域へ入った。


「見えたぞ!」


 目的の小さな港が見える。

 入り江の狼煙台の旗を見るに、まだこの港は味方の支配下にあるようであった。


「錨を降ろせ!」


 船は港に着き、我々と物資を降ろした。



「ご領主様! 俺たちはここで勝利を待ってるぜ!」


「ああ、ありがとう!」


 物資を馬車に積み込み、我が軍は港を後にする。

 そして、下級指揮官たちは、各隊の兵の隊列を整えていった。


「整列、出発!」


 ここからノイジー城塞までは、二日の距離。

 我々は斥候を放ち、慎重に行軍を進めたのだった。




◇◇◇◇◇


 統一歴563年10月中旬――。

 我が方はノイジー要塞を包囲する敵軍を捕捉した。


「報告!」


 斥候からの報告によると、攻撃側の敵軍はおよそ五千名。

 さらに簡易の付け城を築いているようであった。

 我々はその状況を眼下に望める高台に布陣した。



「お味方だ! 助かったぞ!」

「やったぞ!」


 遠くから我々の姿を見て、城塞の兵たちから歓声が上がる。

 反対に敵方の雑兵は、怯えるように静かにこちら側を見ていた。


「殿、布陣おわりましたぞ!」


 我々も柵を施し幕舎をたて、晩の食事に備えたのだった。



 その晩――。

 我が方本陣の幕舎。

 机に置かれた地図を、蝋燭の灯をたよりに諸将が囲む。


「我が方は二千。敵方は付け城もある。どう攻め寄せたものか……」


 モルトケは口を開き、慎重論を唱えた。

 これは旧臣たちの意見を代表したものととらえるべきだろう。


「だが、城塞に籠る味方としては、包囲の解囲に向けて攻撃して欲しいでしょうな」


 スタロンは反対に、強硬よりな意見を発した。

 私は双方の意見に頷き、どうしたものかと思案した。


「明日一日様子を見てみよう。話はそれからだ!」


 私は早々に軍議を打ち切り、各々に早く休むように命じたのであった。




◇◇◇◇◇


 翌朝――。


「ご報告いたします!」


「入れ!」


 物見が急ぎの知らせを持ってきたようだ。

 私は眠い目を擦りながら、体を起こした。


「どうした?」


「敵が城塞の包囲を一部解き、こちらへ押し寄せてくる様子です!」


「なんだと?」


 私は幕舎の外へ出て、簡易の物見やぐらへと昇った。


「……おお?」


 敵は一部を城塞の抑えに残し、こちら側へと行軍してきていた。

 数に劣る我々を、一気に畳みかけようとしているに違いなかった。



「両翼を広げよと伝えよ! 包囲されてはならん!」


「はっ!」


 我が方は小さな高台に拠ったが、そこに全軍が溜まると包囲される恐れがあり、それを防ぐため、一部の部隊を平地に展開させたのだった。


「右翼はアーデルハイト、左翼はモルトケが指揮を執れ!」


「はっ」


 私は地図を見ながら、続けさまに必要な指示を出していった。


 再び物見やぐらに昇ると、敵の陣形は横に広がった横陣。

 それはごく一般的な用兵であった。


 しかし、敵方は平地に布陣すると、のんびりと柵などを作る準備を始めた。

 数の上ではあきらかに敵の方が優勢。

 こちらの部隊が山を下りて攻め寄せるとは思っていない様子であった。

 中には鎧を脱ぎ昼寝をするものもいたのだ。


「……むぅ、ここは出撃するぞ!」


「は? まことですか?」


「コメットを連れてこい! それと騎乗の騎士達に伝達。我について来いとな!」


「はっ」


 コメットとはオヴに貰ったドラゴネットの名前だ。

 私は少数の騎馬部隊を束ね、山を一気に下りて敵軍に襲い掛かろうとしていたのだった。



「者ども、掛かれ!」


「「応!」」


 我々は馬蹄を響かせ山を一気にかけ降り、平地にて油断をする敵兵たちに襲い掛かった。

 戦太鼓が打ち鳴らされ、大きな咆哮が戦場へと広がっていく。


 龍族であるコメットは馬よりも一回り大きい。

 コメットが突っ込む姿を見るだけで、敵兵たちは逃げ出した。



「掛かれ! 掛かれ!」


 後ろを振り返ると、味方は騎乗の騎士だけでなく、弓兵や槍兵も続いてきていた。

 だが、私は彼らを待つことはなく、真っすぐ敵陣に突っ込む。


「速度を落とすな! 敵を混乱させろ!」


 私はコメットの上で愛剣のロングソードを振りまわす。

 傭兵時分、攻勢時での強さは『狂剣士』と言われていたのだ。

 私は、そこら辺の兵士に打たれるような腕前ではない。



「敵の奇襲か!? 慌てるな!」


 敵を蹴散らし、コメットを走らせていくと、味方の混乱を鎮めようとする指揮官が、眼前に迫った。

 その指揮官の体はコメットに蹴り上げられ、そこを私のロングソードで首を刎ねられた。


「御大将が討たれたぞ!」

「逃げろ!」


 敵軍の兵士に恐怖の色が拡がっていく……。


 ……ん?

 もしかしてさっきのは、敵の総指揮官だったか?

 周りを見渡すと、それらしい立派な幕舎もあった。


 しかし、今は機動力こそが力。

 私は立ち止まらなかった。


「今度はこっちだ! ついてこい」


「はっ」


 私は騎士たちを率い、平地にて混乱する敵軍を蹂躙。

 次々に撃破していった。

 勝ち戦の余勢を駆り、我が軍はノイジー城塞を包囲する敵軍にも襲い掛かった。



「掛かれ! その場にとどまるなよ!」


 私は、騎乗する騎士たちを引き連れ、攻城陣地に立て籠もる敵をも、続け様に蹂躙していったのだった。


 そして、味方が優勢となると、城塞に籠っていた味方も呼応し参戦。

 散々に敵軍を破ったのであった。



「勝鬨!」

「えいえいおー!」


 こうして我々は、この戦いを完勝で終えたのであった。

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