第17話……西方への出陣! ~海路よりの旅路~

 王都から帰ってからすぐ。

 各貴族の領地のそれぞれで収穫祭が開かれる。

 我がリルバーン家も収穫祭の真っ最中であった。


「ご領主様! 今年もありがとうごぜぇますだ!」

「良かったら是非食べてくだせぇ!」


「ああ、ありがとう!」


 レーベの街を歩くと、明るい表情の人々に声を掛けられる。

 多分、豊作だったのだろう。

 また、収穫物を分けてくれる民草もいた。



「さてと……、どうしたものかな」


 私は領主の館で、書類の山に囲まれていた。

 新規の耕地を増やしたり、占領地が増えたりしたため、収穫は増えた。

 ただそれに関する新規の事務手続きが膨大な量となっていたのだ。


「アーデルハイト!」


「なんでしょう?」


 私はそばに控える義姉を呼んだ。


「今夜、レーベの町で開かれる祭りで、領主代行として祭りを取り仕切って欲しい。私はこの書類の山で無理そうだ」


「畏まりました」


 義姉はそういって部屋を出ていった。

 そもそもここは彼女の先祖の領地なのだ。

 各村々の長達とも、彼女は小さいころから顔見知りであったのだ。



「お前様も、お祭りに顔を出した方がいいのでは?」


 お茶を持ってきたイオに、そう言われる。


「……ああ、私の統治に未だ反感がある人々も多いだろう。私が出るにはきっと時間が必要なのだよ」


「そ、それはそうかもしれませんが」


 イオが悲しそうに顔を俯かせる。


「あと、人付き合いも面倒だしな。イーオも祭りに出て来てくれ。そこで私のことも良く宣伝しておいてくれ」


「ふふ、わかりましたわ」


 なんだかわからない笑みを携え、彼女は部屋を出ていった。


 書類仕事のできるキムは、北部山地の金山開発で手一杯。

 何でもそこそこ期待できるラガーは、海の衆たちの宴に出席中であった。

 スタロンは脳筋で書類仕事は駄目で、街の警備にあたっている。


 ……と、いうことで、基本的に書類仕事は私だけが行うことになるのだった。


 その晩は、皆が持ち帰ったお祭りで出たご馳走を食べることが出来た。

 鹿の香草焼きや、かぼちゃのクリームスープ等。

 普段食べられないモノのオンパレードだ。

 少し冷えていたが、とても美味しく、収穫の幸せを皆と分かち合ったのであった。




◇◇◇◇◇


 統一歴563年10月――。

 各地の収穫祭が終わり、農閑期に入る。

 手の空いた農家の次男三男が、出稼ぎの傭兵となるのもこの時期である。


 女王陛下にも言われていた用件で、王宮から急ぎのご使者が来た。


「王命である! リルバーン殿。西にはびこる凶徒どもを討伐するために陛下のもとへ馳せ参じよ!」


「ははっ」


「子細はここに書かれておる。励まれよ!」


 詳しい王命が書かれた羊皮紙を私に手渡すと、ご使者は急ぎ馬で帰っていった。



「……ふう」


「殿、命令書を読ませて頂いてよろしいですか?」


「ああ構わんよ」


 家宰のアーデルハイトに羊皮紙を渡す。

 彼女は命令書をテーブルの上に拡げた。


「……ほぉ、兵数は二千名を要求されていますな」


 旧臣たちの中心。

 モルトケが自慢の顎髭をさすりながらに呟く。


「各地の警備部隊を残せば、妥当な数でしょう?」


「しかし王都の奴らめ、ガーランド商国を凶徒呼ばわりとは……。これでは相手の戦意をあげるだけではないか?」


「そうじゃて全く」


 リルバーン家に仕える騎士たちは、王家の方針に対してあまり好意的ではないようだった。

 まぁ、遥か西国への出陣。

 自分の領地から遠くなるで、しかたないことではあったのだ。



「……で、殿。陸路での道はいずれをとおりますかな?」


 モルトケに進軍ルートを尋ねられたが、私はそのいずれのルートも却下した。


「私は海路で向かおうと思う」


「しかし、海の衆は信頼に値しまするかな?」


 モルトケは少し心配そうだった。

 海の衆は独立の機運が強く、王家や貴族家の風下には立たなかったのだ。


「信頼を築くためにも海の衆の船を使わねばな。まぁ心配するな。ウィリアムを通じて彼等には多額の礼を弾むし、彼等も我々が負けねば背きはしまい」


「……それならば、ようございます」


 まぁ、何のことはない。

 渡航代は私が全て出すのだ。

 旧臣たちに反対されるいわれはなかったのだった。


「……では、十日以内に兵をレーベに集めよ」


「はっ」


 こうして各騎士たちは、領地へ戻りお供の兵士を連れて来る。

 これがオーウェン連合王国各地で、同時に大規模で行われたのであった。




◇◇◇◇◇


「荷を積み込め!」


 はしけでは、海のいかつい男たちが荷積みの作業をしている。


 我々武装した将兵は、海の衆の船5隻に分乗。

 槍や矢などの加え、糧食なども積み込んでもらった。


「出航!」


 船旅は順調で、たった半日の旅程で、王都シャンプールについた。

 ここでは、新鮮で奇麗な飲み水などを積み込む。


「あはは、この調子では、戦場一番乗りは我が軍に違いありませんな」


「そうですな。あはは!」


 モルトケたちもご機嫌で、大きな声で笑った。

 軍が進軍する際には、物資の輸送を馬車に任せる。

 馬は飼い葉や大量の飲み水を必要とし、なかなか移動速度があがらないのだ。


 その点。

 船は天気さえよければ、大量の物資を素早く運べたのであった。

 お金はその分かかったが、新しい領地からの収穫があった我がリルバーン家は豊かであったのだ。



 そろそろ出航かという時。

 向こうから、王宮からと思しき急ぎのご使者が駆けてきた。


「ご注進! ご注進!」


 私は、ご使者を船へと招いたのであった。

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