交渉成立ね

 「ごめんキア。90億ドリーだって。」

 チルはしょんぼりとした様子で申し訳なさそうに俺の顔を覗き込んだ

 90億ドリーあれば1000キロメートルほどの高速道路を敷設したり保育所や学校を数百校ほど設立したり、研究開発に追加して基礎研究や革新的に技術開発を推進したり、企業を買収することも出来るであろう

 けれど、俺からすれば大した価値ではなかった

 両親の遺した遺産からすれば1000分の1にも満たない額であるし、幾らかの企業や研究施設も両親の資産の一部だった

 それも地球の企業では比にならない程の時価総額を持つ宇宙を含めた巨大企業を幾つか買収していた

 レレランド宇宙採掘

 ミックステクノロジ

 リャナ―ド地所

 マイケル宇宙開発

 ルルミアエンターテイメント

 この5つは宇宙規模の巨大企業だったがジルとマキが買収し、つぶつぶえねるぎ社として統合されている

 つぶつぶえねるぎ社は別の両親が信用を置いているとある金星人にさせているらしい

 つぶつぶえねるぎ社の本社が金星にあるのだ

 つぶつぶえねるぎ社も俺の資産らしい

 俺自身は何もしていないし、する能力もないが、つぶつぶえねるぎ社の意思決定権は自分にあるのだ

 つぶつぶえねるぎ社だけでもかなりの資産だが、それ以外にも宇宙中の企業への株式投資による資産と宇宙中の国家の通貨が莫大に貯金されている

 俺は何もしていない

 かってに運用されて運営されて、資産は増えていく一方なのだ

 お金や株、企業、土地、建物だけではない

 地球には存在しない摩訶不思議なアイテムも価値が計り知れない

 その為に命が狙われてきた

 俺は何度も死にかけたが、ロラベルの首飾りに助けられてきた

 呪われた首飾りだと思う

 

 「90億ドリー程度だったらどうにでもなるよ。」

 「90億ドリーだぞ、こんな子供に払えるわけがない。」

 「はは、ナッチェさん、その子は規格外なので本当に払えちゃうかも知れないです。」

 

 ナッチェは訝しみの目で俺をみた、どうやら信用していないらしい

 チルはそんなナッチェと俺の様子をみて、困った様子で口を挟んだ

 チルの目からみて、どうやら俺は規格外ならしい

 

 「その子はあのジルとマキのご子息なんですよ。その莫大な遺産があります。どれ位の物かはわかりませんが―。」

 「は?やば、こわ殺される、巻き込まないで下さいよ。関係者だと勘違いされたら命が狙われるじゃないですか。あ、ごめんなさい、でも恐ろしくて。」

 「ナッチェさんでもやはり、コワいですか?」

 「そりゃあねえ。」

 「大丈夫ですよ。キアの変装がバレるなんて事は滅多にないです、それに地球人は実質私たちの支配下ですから。」

 「支配下だって?」

 「ええ、アンノーン。ナッチェさんも聞いた事くらいはあるでしょう。私は彼女の力を借りて戦争を終わらせました。」

 「まさか。」

 

 ナッチェは唖然としていた

 思考がフリーズし時が止まったかのような瞬間が続いた

 はっとした様子でナッチェはミチコの方を向いた

 美しく麗しい

 黒髪ロングパッツン前髪の凛とした姿をみて、はたと気が付いたかのようにミチコの方へ歩み寄った

 

 「貴女があのアンノーンなのですか?」

 「そうです~。」

 「嬢ちゃんがあの―、作り話の類だと思っていたのだが、実在していたとは。御前さんには驚かされてばかりだ。」

 「どうも、娘さんは元気にしていますか?」

 「ああ、あんたのお陰でな。亜人削除の会に捕まりそうな所を助けてくれたんだってな。」

 「自分のしたいようにしただけですわ。」

 「感謝してもし切れねえよ。それだけでなく地球も救っちまった。」

 「大袈裟ですわよ。」


 どうやらナッチェには娘がいるらしかった

 ミチコはナッチェさんの娘が亜人削除の会に攫われそうになっている所を助けた過去があるらしかった


 「90億ドリーなんて払えないとわかっていて提示したんでしょう?」

 ミチコはナッチェの全てを把握しているかのような佇まいで問うた

 「ああ、そうだ。あんたには全てお見通しらしいな。」

 「ええ。貴方は金を取る気なんて最初からないですもの。」

 「だのに、まさか払えるだなんてな。御前たちには頭が上がらないよ。」


 ナッチェは気後れしている様子だった

 

 「払いますよ。」

 俺はナッチェを認めていた

 宇宙船ネネをみた時、その技術力の高さに圧倒された

 このレベルのものが地球にもあるのかと驚いた

 メルア合衆国でもチルル共和国でもない、亜人の国でこれが作れる事が凄まじく感じられたのだ

 俺の産まれたニャ国は未だ、この水準の宇宙船が作れない

 

 「わかったよ。どうやら俺は彼に認められているらしい。」

 ナッチェは俺の目をみて言った

 「ええ。ケリュヌス社を気に入りました。貴方もね。支援するに足る理由があります。」

 「お褒めに預かり光栄ですわ。」

 

 ナッチェは少し照れくさそうに、何処か嬉しそうな表情を浮かべて、右手を差し出した

 俺はナッチェの右手を取って手を握りしめた

 

 「交渉成立ね。」

 チルの明るい声が俺達を包み込んだ

 

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