レレ

 私はレレ

 シユ国特別捜査局の局長をしている

 47年前、私はウ大陸南の都市ゾラで産まれた

 

 国結は表向き亜人差別と奴隷を禁止していたが、実態はとしては迫害が残っていた

 

 亜人攫いは亜人を捕まえては、世界各国に密売していた

 亜人は丈夫だから高く売れるのだ

 亜人削除の会は亜人をみつけては収容所に入れて強制労働、強姦、虐殺していた

 

 母と父はア大陸の出身だったが、私が産まれる前に亜人攫いに遭って捕まり、ウ大陸の都市ゾラに住む亜人趣味の男コニャに売られた

 

 母はコニャに買われる前に父の子を孕んでいて、奴隷契約の3ヵ月前に私は産まれた

 

 産れた瞬間、私も買われた

 奴隷の子は奴隷にされるのだ

 

 コニャは母を何度も強姦した

 母はコニャに奉仕し続けた

 

 父は母と引き離され、強制労働で海に駆り出された

 ペンギン族は泳ぐのが得意だ

 漁の仕事を休みも賃金もなくやらされていた

 そして、私が3歳の時に過労死した

 

 母はコニャとの間に子供を3人作った

 コニャは亜人趣味の男で亜人を各地から買い漁っては性奴隷にしていた

 

 私はコニャを憎んだ

 亜人であることを憎んだ

 人間を恨んだ

 

 母はコニャに飽きられると、過激な電撃を浴びせられたり火炙りにされてその苦しむ姿を動画に撮られ死んだ

 コニャは購入した亜人を最後は虐殺してそれを愉しむのが趣味だった

 

 私はコニャを許さなかった

 両親を殺され、自分まで奴隷にされた

 

 私は最低限の食事を与えられ、教育を受けた

 将来的に売るのだという

 コニャは亜人を売る商売もしていた

 

 私はコニャを殺して脱走することだけを考えて生きていた

 常時監視され、不可能に思えた

 それでも、諦めなかった

 

 従順にいい子を演じ振舞った

 いつか、必ず殺してる

 

 10歳の頃

 コニャを殺害した

 信用を集め、決して逆らわない従順な子を演じ、近づき殺した

 亜人の身体能力を以てすれば人を殺すことなど容易なのだ

 

 私は逃げた

 200年ほど前に出来て復活したという亜人の国を目指して

 海へ飛び込んで、泳いだ

 大陸を越えて

 食糧は自分で獲った

 海の生き物を食べ、時より島に立ち寄り水分を補給し休んだ

 

 1年が過ぎた頃、私はルー大陸西部の沿岸部に辿り着いていた

 私はシユ国を目指して大陸を歩いた

 

 「ここがシユ国か。」

 

 ついに私は辿り着いたのだ

 亜人が街を堂々と歩いていた

 

 11歳の時のことだった

 私はシユ国に受け入れられ国民となった

 はじめて私は国籍を得た

 嬉しかった

 

 学校に通った

 たくさん勉強した

 飛び級で15の時に大学に進学して工学を専攻した

 法律、歴史についても勉強した

 18で司法試験に受かった

 19の時、大学を卒業して軍に入った

 

 シユ国は危うい国だった

 亜人削除の会から常に目の敵にされてきたし、周辺の国からよくミサイルが飛んでくる

 私は亜人の為にシユ国の為にこの身を捧げようと決意したのだ

 何度か小さな戦争に参加した

 何度も死にかけたが、運よく生き延びた

 

 25の時、シユ国特別捜査局に配属された

 世界中を駆け巡り、情報を集め、シユ国の脅威になるであろう権力者を何人か暗殺したりもした

 

 30歳になるとシユ国特別捜査局の副局長に任命された

 

 そんな時だった、私はロテ少年と出会ったのは

 当時ナルゼンのリーダーはロテではなかった

 ロテは未だ14歳の子供だったが、もう頭角を表していた

 

 ナルゼンはシユ国が国結から国家として承認される50年ほど前からあった

 設立者の名前はテトラ

 彼は鷹族の男で無類の強さだったと記録されている

 亜人も人も分け隔てなく助けたと言われている

 

 シユ国が国際社会から表向きは認められ、国結に加盟出来たのは彼の活躍によるところが大きい

 当時ア国と西ルー大陸のメリ―ダ国で行われていた大戦争を仲介し終らせたのは未だ無名だった亜人民間軍事組織のナルゼンだった

 テトラはその功績から世界中の教科書に掲載され歴史上の偉人となっている

 

 争いを嫌い、世界中の亜人を救い出すことに奔走し人も助けた

 だからシユ国には亜人だけでなく、僅かながらの人も住んで、共に共存出来ていたのだ

 例のあの事件が起きてロテがああなってしまうまでは

 

 当時14歳だったロテ少年は異質でこの世のものとは思えない才気に溢れていた

 みた瞬間、私は生物としての敗北を理解した

 物が違う

 面をみただけで、はっと息を飲んでしまう

 未だ14歳だというのに一体どれだけの死線を潜り抜けて来たのだろう

 そして聡明な瞳をしている

 

 「はじめまして、私はレレよろしく。」

 「ありがとう、よろしく。」

 

 ロテと私は握手を交わした

 女性のように柔らかい手だった

 

 

 「活躍の程はよくきいてるよ。」

 「それほどでもないですよ。」

 

 ロテは謙遜している風でもなかった

 14歳にして亜人削除の会を12施設壊滅させ亜人を2111人救出し救ったというのに

 

 カリスマ的人気があった

 街を歩けば誰もがロテの名前を呼んだ

 

 一度、ロテと戦争に参加したことがあった

 ロテの武器の扱いは人知を超えていた

 狙いを定めればほぼ100%の命中率で当てた

 

 ロテは知識も豊富だった

 勉強熱心で私より深いものも持っていた

 

 「どこでそれだけの知識を得たんだ。」

 私は気になってきいた

 

 「ネットと本だよ、あとは人工知能。」

 ロテは四六時中、何か調べていた

 

 知識だけの男でもなかった

 その知識を活かして、事業をやり金を稼ぎナルゼンを大きくしていった

 戦争の時は戦略を立てるのに役立てた

 

 35歳になった頃、私はシユ国特別捜査局局長にロテはナルゼンのリーダーになっていた

 ロテは19歳にして、シユ国が誇る最大の軍事組織ナルゼンのトップになってしまったのだ

 

 ロテと私はよく話す仲になっていた

 親友のようなものだと思っていた

 

 私はロテの一番の理解者でありたかった

 しかしそれは願望でしかなかった

 

 ロテの思考についていけるはずもなかったのだ

 

 ロテは戦争を嫌った

 それは、ナルゼンを組織したテトラと何処か似ていた

 だから彼はナルゼンに入ったのかも知れなかった

 

 あの日、ロテの家族が攫われて虐殺処刑された日

 全てが崩壊した

 

 わかってる

 ロテがこんなことを望んではいないこと

 それでも私は嬉しかった

 人が亜人の力によって蹂躙されている様をみて爽快だった

 

 ドーパミンがエンドルフィンが快楽物質がドバドバ出た

 これまでよくも迫害してきやがったな、次はお前たちの番だ

 そう思ってロテを止められなかった

 

 それだけじゃない、もうロテは空っぽになってしまった

 魂だけが彼を動かし、シユ国を守っている

 

 もう彼に近づくことさえ出来ない

 ギィカの能力は、私が思っている以上に闇深くおそろしいものだ

 私自体も喰われる処だった

 

 真っ黒な心の闇に住み着き、記憶を全て喰らい尽くしてはまた別の依り代を求める

 まるで生き物のような―

 

 ロテは溢れんばかりの優しさで、ギィカを抑え込んで来たのだろう

 しかしあの事件で、心のバランスが崩壊し、抑え込んで来た狂暴なもう一つの本性がギィカを活性化させたのだ

 

 もう誰も止められない

 止められたとして、これからシユ国はどうなる?

 ロテのギィカなしに、この世界で生き残ることはもはや出来ない

 戦争に負け、国際社会から追放され、更に激しい迫害が待っているだけだ

 シユ国も解体されるだろう

 

 私はどうすればよかったのだ

 わからない

 わからないけど、シユ国の為に身を粉にして働くだけだ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る