ロシィ

 

 地球政府 国結がナルゼンへ宣戦布告してから15日が経過した

 2031年 9月24日

 人類の領土の8割は亜人に占領された

 占領された地では人が収容所に入れられ、強制労働、強姦、虐殺され続けている

 

 都市圏は全て占領され、地方のあまり知られていない辺境が生き残っているとされているが、情報が錯綜していて戦況が詳しくはみえてこない

 

 あたしとキアはロテに悟られないように収容所に潜入しては人を解放していった

 あらゆる機械を操るロテの能力ギィカは、対象を把握していないと使えない

 次々に移り変わる戦況において、素早く悟られぬように行動すればギィカを免れる

 

 世界各国の軍事拠点は衛星からわかるし、シユ国特別捜査局によってより詳細な軍事状況も把握していることであろう

 

 「そろそろ収容所に潜入するのも危ないかもな―」

 キアは呟いた

 

 「だね。」

 あたしは同意した

 

 最近では収容所に監視カメラと監視ロボット兵がつけられることが多くなってきた

 おそらく監視カメラや監視ロボットによって得た情報をロテに送っているのだろう

 

 「これからどうする?」

 「シユ国を目指そう。」

 「ロテに会うのか。」

 「ええ。」

 「ついてくよ。」

 

 危険な旅路だ

 シユ国に近づくほど強固な守りが固められている

 キアがついてきてくれるといってくれてうれしかった

 

 「どの道このままじゃ人類はお終いだ。俺の家族だって無事かもわからない。」

 キアは心配そうな声でいった

 

 「家族?」

 「あ~、母の姉とその娘だよ。俺にとっては母と妹みたいな大切な存在なんだ。」

 「育ての親みたいな感じか。」

 「そう。」

 

 キアにも大切な存在がいたのか

 少し意外だな

 

 「監視ロボ発見。」

 ネネの索敵で監視ロボを即座に発見した

 

 「ここから先は監視ロボで厳重に管理されてるみたいだ。」

 キアはあたりを見渡していった

 

 四方八方、監視ロボで埋め尽くされている

 空にもドローンが何万と飛んでいる

 ロボに比べれば数は少ないが幾らかの軍人らしき亜人もいた

 

 ネネコはレーダーに引っかからない高性能なステルス性があるが、カメラには映るし目にもみえる

 ここから先、武器は使えない

 どうなるかもわからない

 

 「じゃ行くよ。」

 あたしはネネコから降りて先に進む

 

 大丈夫

 あたしは亜人だ

 シユ国に入国出来るはず

 キアはあたしの奴隷だといっておけば通して貰えるだろう

 

 「侵入者発見、侵入者発見。」

 早速監視ロボにみつかり警報が鳴る

 

 「なんだ貴様は。」

 コアラの見た目をした亜人の男が駆け付けてきた

 

 「って、あんたチルか?」

 コアラの男は訝しそうにあたしの顔をじろじろとみた

 「ええ。そうだけど―」

 

 あたしはこの亜人と面識がある

 確か、ロシィという名前の男だった

 あたしがナルゼンにいた時、何度か話したこともある

 

 「久しぶりねロシィ」

 「憶えていてくれたのか、嬉しいな。」

 

 ロシィは照れくさそうに頭を掻いた

 

 「で、ナルゼンを抜けたあんたが何の用だ?」

 ロシィは険しい表情で切り出した

 

 「ロテに会いたくて」

 あたしは正直に答えた

 

 「バカか御前は、ロテ様に会えるわけないだろ。あの方は今や神だ。滅多にお目にかかれるものではない。」

 ロシィは少し寂しそうに答えた

 

 「それでも、ロテと話がしたい。」

 「悪いが俺では取り合って貰えない。」

 「そう。なんかごめんなさいね。」

 「いや、いいんだ。俺はこれでも陸軍の師団長になったんだぜ。それでも今ではロテ様と面会も出来ない。それくらい彼は偉くなってしまった。」

 

 師団長か

 凄いな

 あの頃、ロシィは下っ端だった

 それでもロテはロシィとも仲良く話をしていた

 

 「そっか、だったらシユ国への入国を許可してくれないかな。」

 「ん~、どうにか話を通してみよう。」

 「ありがとう。」

 「あと、人間が1人いるんだけど大丈夫かしら。」

 「そりゃあ、ダメだ。」

 

 ロシィの顔色が変わった

 

 「人間はダメだ。シユ国では奴隷にされるぞ。それか虐殺だな。」

 「今そんな感じなのね―、元々住んでた人はどうなったの?」

 「8割は火炙りにされたな、残りは奴隷になった。」

 

 絶句した

 

 「あんまりよ。」

 「まあ、あんたはそういうだろうと思ったよ。やりすぎだとは俺も思う。」

 

 ロシィも思う処があるらしい

 

 「だったらあたしの奴隷って設定で連れていくわ。」

 「あんたって諦めが悪いよね。」

 「それだけが取柄だから。」

 「はは。戦争やめさせたいんでしょ。なんとなくわかる、あんたがナルゼンを抜けた理由もね。」

 

 ロシィはあたしが思っていた以上にあたしを理解していた

 

 「わがったよ。好きにしな、あんたが何処までやれるか愉しませて貰うよ。」

 「ありがとう。」

 

 

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