ミチコ

 

 月への復讐心などとうに忘れてしまった

 生きていることが面倒だった

 寝ては起きるを繰り返しだ

 

 私は地球中を旅した

 旅をしつつ、地学と歴史を調べ尽くした

 

 2億年前

 突然、地球生命が大量絶滅した痕跡がある

 文明を持った生命がいた可能性があるらしい

 放射能の異常も検出している

 現在地球に生息している動植物と近いものの化石がいくつか発見されている

 しかし生命進化の連続性がなく、どの系統に属するか解明されていない

 ジョンヌ動植物群と呼ばれている

 

 300万年前人類が誕生したとされている

 発見されている最も古い人類の化石が300万年前のものだ

 

 前世で私が死ぬ前に、月にアダムとイブの種が届いた

 地球で人類は核戦争等により滅亡寸前だった

 

 推測するに、私は人類が滅亡して2億年程度未来の地球に生まれ変わっただろう

 確かな証拠はない

 

 だからといって、何かしようという気にもならなかった

 月へ行けば手がかりがあるかも知れないとも考えたが、もう酷い目に遭うのは懲り懲りだ

 

 地球中で誰がどこで殺し合っていようが、困っている人がいようがどうだってよかった

 助ける力があったとしても、助けるのも面倒だった

 

 ただ、気に喰わないものは、私の独断で仲裁する

 一切の血を流さず

 

 私は世界中を渡り歩いて、静かに暮らしていた

 道中で、理不尽に遭遇しては、中に入って仲裁した

 助けているわけではない、私がそうしたかったからしただけだ

 

 

 「助けてくれてありがとう。」

 綺麗な白い毛並みをした犬系の亜人は深くお辞儀していた

 律儀なやつだ

 

 人と戦争している亜人の女を助けた

 亜人なのに、敵味方なく、傷を手当し食料を与え、困っている人の力になることをしていた、頭のおかしいやつだった

 ここで死ぬは勿体ない気がした

 

 「ちょっと待って―。」

 女は何か言いたげだったが、私は一瞥して、その場を去った

 

 面倒事には巻き込きこまれたくない

 

 正直、人と亜人の戦争なんてどうでもいい問題だと思っていた

 かってに殺し合っててくれよと思っている

 

 今でもそう思っている

 ただ、地球を滅茶苦茶にされて、最悪だ

 私の平穏な生活を滅茶苦茶にしやがって、あのナルゼンとかいうやつらも、人類も、不愉快なことをしてくれるものだ

 

 私は、なんやかんや地球が好きになっていた

 ほぼ無双状態だし、美味しいお店も、ゲームも漫画もアニメとかのエンタメもあるし

 学問も盛んだし、人類も亜人も面白いことをしてくれる

 美しい景色も、生態系もある

 

 ぶち壊しにされて、腹が立った

 平穏を自ら破壊するなんて、どれだけもの好きなのだろうか

 

 「核戦争かあ。ってか発電所爆撃し合ってるらしいし、そろそろ地球も終わりかも。」

 私は宙に向かって呟いていた

 

 どうしたものだろう

 あまり目立ちたくもない

 

 私にかかればこんな戦争、たった一言ですべてを終わらせられる

 けれど、それでは一時の応急措置に過ぎない

 

 「チルって子を使えないかしら。」

 

 チル誰一人殺さず、戦争を仲裁しようとしている亜人の女

 彼女だったら人と亜人の架け橋になるかも知れない

 

 私はブラッドチェインでだいたいの状況は全て把握している

 

 《ミチコの能力》

 【ブラッドチェイン】

 効果1ゼロノ 地球で産まれた人と亜人を完全に支配できる 絶対服従させあらゆる命令をきかせられる

 発動条件 命令する

 代償 なし

 ゼロノの効果を無効化するアイテムあり


 効果2キョズ 知ろうとした時 頭に風景や感覚として情報が共有される

 発動条件 太陽系の範囲内であれば、知ろうとしただけで発動される

 代償 なし

 キョズを無効化するアイテムあり

 キョズが効かない個体も確認されている

 

 【セルパ】

 効果 幽体離脱できる

 発動条件 離脱しようと思えばすぐ出来る

 代償 あらゆる物質に触れられなくなる 


 【ボディット】

 効果 肉体を錬成する

 発動条件 生物と石を捧げ祈る

 代償 なし

 

 「あ~面倒くさい。」

 

 私は憂鬱な気持ちになった

 ロテってやつの半生を知っているが、同情する気も起きない

 私だって、前世は悲惨な目に遭ったんだ

 

 ロテもナルゼンも亜人のテロリストも、非合理的なやつらばかりだ

 わざわざ同時多発で都市なんか攻撃しなくても、発電所を制圧してしまえば、殆ど勝ったも同然なのに

 都市を壊滅させたり、多くの命を奪うのは、人への恨みからだろう

 単純に腹いせだ

 それか、残虐なテロが好きなのかも知れない

 

 しかし、このままじゃ碌なことがない

 

 チルが私を探していることは知っている

 あいつは正真正銘のバカだ

 頭の中がお花畑のお姫様だ

 

 あんな酷い経験をしたのに、誰も殺さないとか言ってる

 不可能なことはわかってる癖に

 完全には諦めていない

 

 「どこまでお人好しなバカなんだあいつは。」

 

 チルというやつは、バカだが憎めない

 重みのある女だ

 仕方ないから手を貸してやるか―

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