アンノーン未知子

ミカ

 私は死んだ

 確かに肉体は焼かれ灰となり宇宙を巡った

 

 どうして、生きている?

 どこだここは

 

 真っ暗だ

 けれど、温かい

 外から人の声がきこえる

 

 もしかして―

 

 「調子はどうだ。」

 「いい感じよ。」

 「そうか。」

 

 手でさすられている

 私はこの人の中にいる

 

 直感がそう告げていた

 

 転生したのか

 

 母はツキミ、父はクヌギという名前だった

 私にはミカという名前がつけられていた

 

 「ミカは生まれつきの強化人間だ。」

 父は私がお腹の中にいる時から、私が強化人間だとかといってはしゃいでいた

 

 「やったわね。」

 母も喜んでいた

 けれど、どこか普通ではなかった

 

 「ミカ、ミカあたしたちのかわいいミカ。」

 父と母は私を偏愛した

 愛なのだろうか

 

 愛だといって私の肉体を実験に利用した

 

 「この子は天から素晴らしい肉体を授かっている。人類の為に有効活用しなくては。」

 父はそういって、あたしを拘束し検査した

 

 電気を身体に流されどこまで耐えられるか

 刃物で切りつけられ、プレス機で身体中をプレスされた

 

 父と母は研究者だったらしい

 生まれつき特殊な体質だった私に固執していた

 

 私にはおよそ痛みと呼べるものがなかった

 両親が強化人間でもないのに生まれつきの強化人間だった

 更に私は不死身っぽかった

 両親はあやまって私をよく殺してしまったが、死ぬことはなかった

 

 肉体がボロボロとなり、皮が剥がれ、内臓は破裂し、血が抜けて、脳が潰れても意識はあった

 知能もあり、正常だった

 

 私は、コピーされた

 1万5000体のクローンが作られた

 

 「どうしてなんだ!。どうして―」

 

 けれど、私のコピーは見た目は同じでも、人間と同様に脆かった

 すぐに壊れ、すぐに死んだ

 両親は1万5000体の私のコピーを3年の間に実験で全て殺してしまった

 

 今では10万体以上の私のコピーが実験室に保管されている

 

 学校に通っている個体もいる

 世界中に私のコピー品がばら撒かれているのだ

 売買もされている

 気味が悪い

 不快になる

 

 私は逃げ出したかった

 

 ボロボロの腐った身体の儘

 死ぬことも出来ず

 苦しかった

 

 「この子です。みてくださいモルト博士。」

 父がある日、背の高い赤髪の女を連れてきた

 プリン研究所の伝説的な研究者らしい

 

 「ほう、これはみたことがない。」

 モルトは興味深そうに私を観察した

 

 「どういう原理が働いているのか気になりますねえ。少し借りていっていいですか?」

 モルトは私をプリン研究所へ持って行った

 

 モルトは私の細胞を採取して、分析していたが頭を悩ませていた

 

 「わからない。どうしてこの細胞が壊れない?どういう仕組みなんだ。異世界でも魔界でも他の惑星でも、みたことがない―」

 

 モルトは驚愕していた

 酷くショックを受けていた

 

 「一度、粉々にしてみましょうか。」

 モルトは私を遠い惑星へ連れて行った 

 

 「ごめんよ。」

 

 爆弾を身体中に詰め込まれ、爆発させられた

 粉々になって、肉片だけになった

 

 「うむ。やはり死んではいないか。」

 モルトは肉片をみて、まだ私が生きていると即座に理解した

 

 わけがわからない

 どうしてわかるのだろうか

 

 「次は、核爆弾を試してみるか。」

 

 肉片を集められ、核爆弾の中に入れられ、爆破された

 

 「う~ん。やはりか。」

 モルトは首を傾げた

 

 「痛みがないことはわかっている。しかし、あんな両親の元に生まれて大変であろう。身体は修理しておいてやろう。」

 

 モルトは私を肉片を繋ぎ合わせて、私を元通りにした

 

 「おまえは特別だ。私の叡智を持ってしてもわからん。」

 モルトは悔しそうにしていた

 

 「おまえは痛みがほしいか?僕にだったら痛みを与えられるよ。」

 モルトは真剣な表情で私をみつめた

 

 「いらない。苦しいだけだし。」

 私は答えた

 

 「そうか、わかった。」

 モルトはそれ以上、痛みについて何も言わなかった

 

 「ジルとマキはこの存在を知っていたのだろうか、いやおそらく知っていた、あいつらは常に私の先を行く―」

 

 モルトはジルとマキという人の話ばかりしていた

 伝説の探検家で、今は行方不明になっている

 行方不明になる3年前の話だ、その時私は5歳だった

 

 「もうおまえに用はないよ。好きに生きな。」

 

 モルトに預けられたのは3日ほどだけだった

 

 私はもう何もしたくなかった

 痛みは感じないのに、苦しい

 生まれ変わっても愛されることはなかった

 歪んだ愛で、改造されて好き勝手されて

 

 何もいいことなんてなかった

 

 「おかえり、ミカ。」

 父は帰ってきた私をみて、心配だったの言葉の1つもかけなかった

 

 「ミカ、あなたは素晴らしい個体だわ。身体も元通りになって、素敵だわ。」

 母もおかしな人だった

 私の心配より、あたしの肉体の性能ばかり褒めた

 

 それでもそんな両親が好きだった

 転生前は親なんていなかったから

 人が1人もいなかったから

 なのに―

 

 8歳の時、私は能力に目覚めた

 というより生まれつき私には3つの能力があった

 気が付いていないだけで

 

 両親に人体実験されている最中、急に思い出したのだ

 

 私はこいつらの祖先だ。

 

 直感だった

 わからない

 頭から離れない

 

 地球で産まれた人と亜人の全ての5感を感じ取れる

 全世界に目があるような感覚だ

 地球だけじゃない宇宙に行った者が今、みていることまで全て入って来る


 「死ぬ。」

 実験でまた殺された

 高熱で身体中を溶かされた

 それでも、蘇ってしまう

 

 あ、わかった

 生き返って、すぐに理解した

 

 私の死は地球で産まれた人と亜人の命を代償にして無効化されている

 今、私が死んだ直後にある男が死んだ

 遠い北に住む才能ある若者で、学者になる予定の大学院生だった

 死んだ瞬間、私は生き返った

 

 「あ~幽体離脱してるな。」

 

 私は自分の肉体から離れていた

 幽体離脱している

 魂だけで、実在している

 

 実験中の両親は困惑していた

 私が死んだと勘違いしているようだ

 

 「これも能力の1つか。」

 

 このまま逃げてしまおうと思った

 魂の儘、遠くへ逃げた

 

 腹は空かないし、何も食べなくても死ぬこともない

 そもそも生死がどうなっているのかもわからない

 

 しかし不便ではあった

 ものに触れることができないのだ

 

 「肉体を作らないと。」

 私は病院へ行った

 

 「若くて使えそうないい遺体はないかな。」

 遺体を探す

 

 「あったあった。」

 遺体を借りては、肉体錬成の材料を集めた

 様々な遺体を人が寝静まっている間に使った

 遺体が親族などに供養されては、また別の遺体を使わせて貰った

 

 肉体錬成は生物と石で出来る

 哺乳類、爬虫類、植物、蛍石、鉄、なんでもいい

 

 私が肉体錬成の能力を使うと生物と石は融合し、真っ黒な粘土が出来る

 これを人の大きさまで集めて、人の形を作れば肉体の土台になる

 

 真っ黒な粘土には祈りを捧げる

 より祈りが深ければ深い程、よい肉体が出来るのだ

 

 4年が過ぎたころ

 私は肉体錬成に成功した

 素晴らしい肉体が出来た

 

 私は黒髪で白く美しく細身な女性を象った

 雪のように白く美しく

 真っ赤なドレス姿を象った

 作られた服は肉体の一部となる

 

 「何もしたくない。」

 私は錬成した肉体に乗り移って呟いた

 

 「何もかもが面倒くさい。楽して生きてたい、もう苦しいのは厭だ。」

 

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