世界都市同時多発ミサイル爆撃

 「どこだここは―」

 俺はモルトに殺されたんじゃなかったのか

 思い出しただけで身体中が痛い苦しくなる

 身体中が熱くなる

 

 「よかった目が覚めたのね。」

 チルは微笑んだ

 

 「モルトは?」

 俺は辺りを見渡して警戒しつついった

 

 「大丈夫よ。見逃してくれたわ。」

 チルは少し伏し目がちにいった

 

 「それと、モルトさんから忠告よ。貧弱なやつは宇宙に行っても死ぬだけだってさ。」

 チルはいった

 

 モルトは一体何がしたかったのだろうか

 

 「モルトは敵ではなかったのか。」

 俺は呟いた

 

 「わからない。」

 チルは首を傾げた

 

 「ただ―、あなたの母親と知り合いっぽいわよ。何か因縁のありそうな感じだったわ。」

 チルは話を続けた

 

 母さん―

 

 「因縁かあ―、気になるな。」

 俺は、未だみぬ両親を思い浮かべた

 

 「あ、それと、キアは生まれつきの強化人間らしいよ。だから手術は必要ないんだってさ。」

 チルは少し寂しそうにいった

 

 そっか

 両親の血だろう

 

 「よかった。」

 俺は安堵していた

 

 「―でもキアが寝ている間に大変なことになったわ。」

 チルは、重く沈んだ声で切り出した

 

 大変なこと?

 

 「ここは地下、避難してきたの。」

 

 避難―

 

 「外に出てみようか。」

 

 チルは歩き出した

 階段を登って地上に出る

 

 「―。」

 

 世界都市としての繁栄の面影はなかった

 すべて壊滅させられていた

 焼け野原

 焦土焦土焦土

 世界都市同時多発ミサイル爆撃がナルゼンによって行われた後であった

 その中プリン大学だけは無傷で残っていた

 歪で、不釣り合い、不気味だった

 

 「酷い―。」


 俺はどうでもいいと思っていた

 亜人と人の戦争になんか興味もなかった

 それでも、酷いと思えた

 

 「世界中の都市がこの有様らしいわ。」

 チルは俯いた

 

 「そんな―、これじゃあ、人類はもう。」

 俺は愕然とした

 

 宇宙に行けるだろうか 

 この調子で

 本格的な戦争が起こるだろう

 人類と亜人の、命運を賭けた殺し合い

 そんな時代に宇宙船を飛ばしてくれるだろうか

 

 「あたし、どうしたらいいんだろう―、あの人もみつからないし。」

 チルは弱音を吐いた

 

 [地球政府放送]

 ルミリル暦2031年9月9日 地球政府はナルゼンへ宣戦布告を行います

 人類の軍事力を総動員し、これを壊滅せしめます

 [終わり]

 

 今やナルゼンは亜人にとって憧れの存在

 殆ど亜人はナルゼンに加担し喜んで戦場へ赴くことであろうとの予測がされていた


 地球1の大財閥、ボン財団はナルゼンを支持し、亜人社会と人類は更に敵対した

 ユーリ団と地球で2番目に大きい財閥ユキノ財団は中立を貫くと表明した

 

 「チルは戦場に行くの?」

 俺はきいた

 

 「行くよ。ロテを止めて、人と和解する。」

 チルは答えた

 

 無謀だ

 

 「死ににいくようなものだよ。」 

 俺は、吐き捨てるように呟いた

 

 「かもね。」

 チルは自虐的に乾いた笑みを浮かべた

 

 そんなチルをみていると、俺は胸が苦しくなった

 これが情なのだろうか

 知らない内に情が移っていた

 

 「俺もついてくよ。」

 

 「え?」

 チルは戸惑った様子で俺をみた

 

 「乗った船だ。最後まで付き合うよ、宇宙へ旅立つ前にね。」

 照れくさくて、チルをみることができなかった

 目を泳がせて、髪の毛を弄って気を紛らわせた

 

 「ふふ。キア~、一緒に死のうね。」

 

 「物騒な事いうなよ。」

 背筋の凍る感じを憶えた

 チルは本気なのだ

 

 「あたしは本気だよ。死ににいくことになるのをわかってる。本当についてくるんだね。」

 チルは確認した

 

 「うん。俺は死なない。どうにか生き延びてみせるよ。」

 俺はチルが好きなのかも知れない

 

 こんな非合理的な行動をする自分に嫌気が差した

 

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