ペイン

 「キアに何したのよ!。」

 あたしはモルトを睨みつけた

 

 「おお、こわいね嬢ちゃん。」

 モルトはニヤニヤしつつ、あたしを味見するようにみた

 

 ゾクりと寒気がする

 あたしより遥かに強い

 本能が警告を出している

 逃げろ逃げろ逃げろと赤信号が点滅している

 

 「廃人にしてやったのさ。」

 モルトはあたしの背後に回り込んで、耳元で囁いた

 

 みえなかった

 モルトがあたしの背後に周り込むのを認識出来なかった

 

 「廃人ですって。」

 あたしはどうにか正気を保って言葉を発した

 

 「ペイン。痛覚を支配する力。これでキアくんは途切れることのない痛みを7000年味わっているところさ。耐えられるかなあ、彼。」

 モルトは恍惚の表情を浮かべた

 そこには深い歪んだ愛情があった

 

 【ペイン】

 痛みを支配する能力

 痛みを与えらえる

 発動者が解除するか、殺すまで効果は持続する

 痛覚支配の対象を入れ替えるアイテムで逃れることも出来る

 発動条件 対象に触れる

 代償 身体の一部がダイヤモンドよりかたく丈夫に変化する、使用する度に上限なくかたく丈夫になる

 

 キア―

 大丈夫かしら

 

 「キア、キア。」

 あたしはキアを抱きしめる

 

 「無駄だよ。試しに味わってみるかい。」

 モルトはあたし両方の目玉を取り出した

 

 「うああああ。」

 呻いてしまった

 

 「何もしてない幻覚をみせているだけだよ。」

 モルトは鎌であたしを八つ裂きにした

 

 痛い

 痛い

 痛い

 痛いなんてものではない

 

 「今ので一秒も経っていない。精神時間で30秒程度。」

 モルトはブルブルと震えるあたしをみた

 

 こわい

 今の一瞬でトラウマを植え付けられた

 あのたった1秒程度で

 

 身体がいうことをきかない

 

 それでも、あたしは

 気高くありたい

 

 「ほう、それでも正気を保つか、強い女だ。どんな地獄をみてきたんだろうねえ。ふふ。君にも興味が湧いて来たよ。」

 モルトは感心した様子であたしをみた

 

 「そろそろ精神時間で7000年経つ頃合いだね。」

 モルトは呟いた

 

 「キア。」

 あたしはキアの方へ駆け寄った

 

 「あ~あ、彼もうダメだね。な~んだマキの子だといってもこんなところかあ。」

 モルトは拍子抜けだといった様子で、息のないキアを一瞥した

 

 「マキ?」

 あたしは首を傾げた

 

 「彼女だったら7000年くらい軽々と耐えた。何事もなかったように笑って、それでも僕を許し愛した。」

 モルトは懐かしそうに、どこか遠くをみつめた

 

 「何をいってるの?」

 

 「少し昔を懐かしんでいただけさ。」

 モルトは答えた

 

 「酷い。」

 チルは涙を流した

 

 息がない

 死んでいるようにみえる

 

 「こうなると、もう解除しても元には戻らない」

 モルトはポケットから人形を取り出した

 

 モルトは人形を地面においた

 キルから赤黒く禍々しいオーラのようなものが出て来て、人形の中に入って行く

 

 「母親に免じて見逃してやるよ。」

 

 人形は真っ赤に染まり、血のような液体になり蒸発して消えた

 

 「なにが起こったの?」

 チルは茫然としていた

 

 「ふふ。痛みが人形に乗り移ったのさ。人形には痛覚なんてなかった、痛みを移した結果人形は消えてしまった、もしかしたら生きていたのかも知れない。痛みとはなんなのだろうね。」

 モルトは不気味な笑みを浮かべた

 

 気持ちわるい

 気分が悪くなる 

 

 「まあ、意識はないだろうがね、痛いという感覚だけに憑りつかれて耐えかねて壊れてしまったのだろう。痛みの研究中みつけた痛覚の糸を使って作った人形。いつか命を作り出すんだあ~、もう少しでできそうなんだけどなあ。あいつら、プシュゥっと血みたいになって死んじゃうんだあ。」

 モルトは饒舌に語った


 【痛覚の糸】

 モルトが痛みの研究中にみつけた痛みを移せるアイテム

 布や綿にして人形を制作することも出来る


 

 それより、キアはどうなったのだろう。

 

 「キア!。」

 あたしはキアに駆け寄った

 

 キアは息を取り戻していた

 まだ意識はない

 

 「キアは生まれつきの強化人間だ。手術は必要ない。」

 モルトは呟いた

 

 「あ、そうなんですね。」

 あたしは理解した

 

「だからって、貧弱なやつは宇宙にいっても死ぬだけだ。キアが起きたら忠告しておくんだな。無駄死にするだけだ」 

 モルトはそっけなくいった

 

 「はやくそいつを連れてここから出てけ。殺されたいのか?。」

 モルトは、あたしたちを睨みつけた

 

 場所が研究所に戻っていた

 さっきまでいたところはどこであったのであろう

 瞬間移動に近い能力があるのかも知れなかった

 

 「あたしたちを試したんですか?」

 あたしはきいた

 殺そうと思えば殺せるはずなのに

 

 「とっとと出てけ。」

 モルトから殺気が出た 

 ペインだけが彼の能力ではないのであろう

 もっと恐ろしい力を持っているに違いない

 こんなヤバい人がいるなんて知らなかった

 

 「はい。」

 あたしは逃げるようにプリン研究所の外に出た


 「っち、死ねばよかったのに。自分の甘さに反吐が出る。」

 モルトは静かに呟いた


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