モルトの独白
【モルトの独白】
僕はモルト
2500年ほど前、ヨ大陸に生まれた
僕は女として生まれたが男に性的魅力を感じることはなかった
僕は女が好きだった
女に恋をし、女と付き合い、女に性的魅力を感じ女と何度も寝た
女と子を作りたかった
僕は何千もの女と付き合ってきたが、皆死んでしまった
けれど、肉体が女であることに違和感はなかった
むしろ女として生まれて来てよかったとさえ感じていた
元々、僕は普通の人間だった
たった100年程度も満足に生きられない人間だった
僕の生まれた時代にはガソリンで動く自動車さえなかった
人類は空も飛べなかった
しかしすでに鉄はあった
宗教もあった
哲学も科学のはしりのようなものもあったらしい
けれど、子供の頃は知らなかった
未だごく一部の人にしか広まっていなかったのだ
相変わらず人類は戦争に明け暮れていた
亜人と人類の戦争も僕が生まれた時以前からあったらしい
僕は死ぬのがこわかった
年老いていずれは死ぬことに酷く怯えていた
12歳の時、僕は異世界へ通じた
わけがわからなかった
神の導きだったのだろうか
偶然それは起こったのだ
この世界とは違う別の世界に飛ばされた
林を散歩中、なんの脈絡もなく僕は飛ばされたのだ
そこで人知を越えた力とアイテムを得た
運よく僕は異世界でもやっていけたのだ
何度も死にかけたが偶然助かった
そして帰って来ることも出来た
異世界で得た力もアイテムも絶大だった
もちろん能力にもアイテムにも代償はあるが、あまりにも強大な力だった
人類社会なんて簡単に征服して我が物に出来るほどには絶大だった
けれど僕は世界を統一しようだなんて気にはならなかった
その頃にはもう50代を過ぎていた
永遠に年老いない技術が欲しかった
異世界でもそれが出来たものは殆どいなかった
いるにはいるが僕では到達し得なかった
僕は研究をし続けた
一人籠って不老の探求をし続けた
寝ている時間も惜しかった
気が付くと脳の半分だけを寝かせて活動出来るように変化していた
半分の脳が寝ている間にもう半分の脳で活動し、交互に寝て起きてを繰り返し24時間一日中毎日活動出来るようになっていた
30年後
当時の人類文明より3000年は早いであろう段階で、不老技術を完成させた
ただ副作用で背が異様に高くなってしまった
不気味に髪が伸びて切っても切っても地面に着くほど長くなってしまった
生まれつき綺麗な金色だった髪も真っ赤に染まってしまった
不老になって僕は100年ぶりに故郷に帰った
かつて共に幼少期を過ごしたものはもう殆ど誰も生きてはいなかった
故郷の人たちは僕の異様な背の高さと髪の長さに怯えて、殺そうとして来た
どこに行っても異物扱いされた
人はもう僕を人間だとは思っていないようだ
悲しくはなかった
その頃にはもう人間と亜人間の大戦争はじまっていた
シユ戦争とかいうやつだ
100年ほどが過ぎて戦争は終結した
亜人が負けた
無残だった
亜人は奴隷にされ人にいいようにされていた
僕にとってはどうでもいいことだった
戦争を終わらせることも、人類社会を統一することも可能なだけの力を持ってはいたが、僕にとっては些細な面倒事に過ぎなかった
時間の無駄なのだ
もう性欲も完全になくなっていた
そうやって人類をみくびっていた
けれど、間違いだった
人類の成長は凄まじかった
僕でさえ達成し得なかった様々な発見、発明を成し遂げた
たった数千年の内に僕を越えた技術を幾つか開発せしめた
僕は焦った
宇宙になど行ったこともなかったが人類は宇宙へ行ってしまった
800年ほど前のことだ
僕はどうしても仲間に入れてほしくなってしまった
けれど人類は僕を受け入れてはくれなかった
僕は人に畏れられた
銃で撃たれても死なず
ロケットランチャーでも毒ガスでも、核爆弾でも死ななかった
どんな拘束をされても無傷でダイヤモンドよりも硬い肉体を手に入れていた
けれど誰も僕を仲間だと認めてはくれなかった
はじめて孤独を感じた
絶望し自殺しようと自らの体内に仕込んだ爆弾を爆発させた時、僕は魔界へ行ったのだ
あれも偶然だった
魔界には魔物が住んでいた
おそろしいやつらだった
当時の人類ではどうやっても殺せなかった僕が何度も死にかけた
酷い目にあった
僕はどうにか生き延びて人知を更に超えた悍ましい力とアイテムを地球に持ち帰った
それから300年かけて僕は人類社会に溶け込むことが出来た
チルル国の運営を手伝い、戦争を調停し、技術提供も行った
500年ほど前、俺は宇宙へ行ったが帰って来られたのは俺だけだった
宇宙の環境はどうやら人には厳しすぎるようだ
人類ではじめて火星に到達したものはだいたい人知を越えた力を持ったやつだけだった
僕以外にもいたのだ
1万年以上生きているものもいた
火星にも知的生命が存在していることもわかった
286年ほど前には、チルル国からも認められてプリン大学を創設するに至った
250年前、ある男が強化人間技術を確立した
しかし成功確率が1%に満たない危険なものだった
成功したとしても宇宙の過酷な環境で精神がやられて死ぬものが殆どだった
僕は宇宙へ行って死ぬ人を何人もみてきた
人はあまりにも脆い
そんな生活を送っていた時、突如現れたのがマキだった
マキ
未だに謎の多い女だ
僕が世界で最も深く愛した女だった
僕が2500年かけて得た知恵を軽々と越えた
当時まだ12歳だった少女がだ
ニャ国で偶然出会った子だった
5歳の時にはもう地球中をたった1人で旅していた
7歳の時には僕の研究を理解していた
10歳の時には僕を越えていた
どうしたわけか異世界や魔界でないと手に入らない能力を生まれつき思っていた
2500年生きて来て、そんな人物に出会ったのははじめてだった
わけのわからない女だった
けれど僕は完全に魅了されていた
マキに会った時から一目惚れしていたのかも知れない
その才能にも容姿にも何もかもに
12歳の時には一緒に宇宙も旅した
マキは強化人間手術にも成功し宇宙にも適応出来た
僕はマキに気持ちを伝えたが叶う事は一度もなかった
2500年生きて、こんな少女に恋をするなんて僕はなにをしているのだろう
己に嫌気が差した
力ずくでおかしてやろうかとも考えたが、マキをみているとあまりに美しくて畏れ多くてとてもそんなことは出来なかった
マキのことを思いながらなんども自慰に耽った
性欲なんてもう何千年もなくなっていたのに―
けれど、マキは一度も僕に振り向くことはなかった
ある日、ジルという男を連れて来た
この男も異常だった
マキと同様に異常な能力を持っていた
僕はジルに激しく嫉妬した
ジルを殺そうと思った
マキも愛しいからこそ殺そうと思った
それから2人の命を狙うようになった
何度殺そうとしても、ついに殺すことは出来なかった
2500年も歳の離れた子供に、僕は完全に負けていた
どんな殺意も2人は受け止めて、それどころか許した
僕は憎いはずのジルが憎めなくなってきていた
そんな己も憎かった
ついに2人は遠くへ行ってしまった
何処にいるのかもわからない
僕を置いていってしまった
だから2人の子供がいることを知って嬉しかった
同時に深く嫉妬した
そんな2人の子供が運命なのか、僕の研究所に来た
だから試してやろうと思った
どれほどのやつなのか
それだけだ
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