ギィカ

 黒い霧と靄のようなものがロテから出ていた

 目を擦ってみてみても、やっぱり出ている

 おかしい

 あたしがどうにかしてしまったのか

 

 「許さない。」

 

 ロテの瞳からは真っ黒な涙が流れていた

 涙が黒い?

 一体、何が起こっているんだ

 

 「コロス。」

 

 ロテは亜人削除の会の配信をじっとみつめていた

 念じるようにみつめていた

 不気味だった

 

 すると

 

 「なんだ、やめろよ。」

 

 「いや、待て勝手に動くんだ。」

 

 画面の向こう側で亜人削除の会の、戦車、車、マシンガン、ノコギリ、銃、火炎放  射器などなど、ありとあらゆる機械が武器が、勝手に動き出した

 

 「やめろやめてくれ。」

 

 ロテの家族を処刑していた男は、電動ノコギリでズタズタに切り裂かれ、マシンガンで撃たれ、火炎放射器で焼かれた

 

 誰も動かしてない

 宙を浮いている

 

 画面に映る亜人削除の会の人間は、全員死んだ

 血と肉の海が映っている

 

 「ロテがやったの?」

 あたしはおそるおそる口にしていた

 

 確信はない

 けれど、気付いた時には、きいていた

 

 「―」

 ロテは無言で頷いた

 

 静寂とした空気が流れ

 張り詰める

 

 「ははは。なんか念じたら、やってた。ははははは。」

 ロテは壊れたように笑っていた

 

【ロテに発現した能力 ギィカ】

・内容

 あらゆる機械を操り使用できる

 どれだけ距離があっても使用できる

・使用条件

 どこにどういった機械があるのかある程度認識していること

・代償

 記憶

 

 ロテはギィカで亜人削除の会を次々に壊滅させていった

 その度に、記憶を失った

 

 「やりすぎよ。度が過ぎてるわ。」

 あたしはロテを止めたかった

 

 「邪魔をするのか?」

 ロテは悲しそうな寂しそうな目でじっとあたしをみた

 

 「皆殺しにしなくたっていいじゃない。」

 しばらく間をおいてあたしはいった

 

 「邪魔をするんだな。」

 

 「・・・」

 

 「ごめん。」

 

 「わかってる。お前は優しすぎるんだ。」

 

 ロテはあたしから目を逸らして一呼吸した

 

 「でも、それじゃあ何も変えられないんだ。誰かがやらないといけない。」

 

 あたしはそれ以上、何も言えなかった

 止めることが出来なかった

 

 ロテの活動は日に日に過激になっていった

 

 「民間人も殺したのね。」

 あたしは悲しかった

 

 「ああ、地球人全体にわからせないといけない。その為のテロだ。」

 ロテは亜人削除の会以外の人にまで被害が及ぶテロ活動をやるようになっていた

 

 「酷い。」

 

 「亜人が舐められないようにするには力でわからせるしかないんだ。仕方ない。」

 

 ナルゼンは畏れられるようになっていった

 ロテは国際指名手配にされていた

 60億の懸賞金が付いていた

 

 それはロテに能力が発現して1ヵ月ほどのことだった

 たった1カ月で100近い亜人削除の会を壊滅させ、大規模な爆破テロを4回行った

 

 その頃には、もうロテに幼少期の記憶は殆どなくなっていた

 もともとロテは記憶力がいい方だった

 お腹の中の記憶まで鮮明に覚えているような男だった

 

 「あたしは、ナルゼンを抜けるわ。」

 あたしは決心していった

 

 「そうか。残念だ。」

 ロテは寂しそうな目をしていた

 

 あたしはロテが好きだった

 人としても、多分恋愛的な意味でも。

 

 あれから3ヵ月

 ロテは殆どの記憶を失っている

 じぶんが誰なのかさえ憶えていない

 ただギィカの能力を持っただけの肉体になった

 

 魂だけがロテを動かしている

 まだ記憶のあった内に計画したテロを遂行するだけの廃人となった

 高性能な機械によって計画は随時修正されている

 

 あたしは今、ユーリー団に所属している

 亜人と人の共存を願っている

 ロテを止めるのだ

 

 ナルゼンから地球人を守ることもしている

 かつて迫害されていたあたし

 人を憎むあたしだけれど、もう過去のことは許してしまっている

 

 あたしがロテに助けて貰ったように、次はあたしがロテを止めたい

 

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