シユ国
あたしは運ばれた
ジェット機で移動していたらしい
空を飛んでいるらしいことは離陸する時にいつもより重力を感じてなんとなくわかった
半日ほどが経って、降ろされた
一体どこに来たのかもわからない
誰かに助けられたのか
そう信じたい
あのぬくもりが本物だったのだと
こわかった
また酷い拷問が待っているのではないかと考えると、震えることも出来なくなった身体が凍えてしまいそうな感覚を憶えた
「いたっ。」
心の中で声を上げた
麻酔だ
すぐにわかった
意識が―
あたしは深い眠りについた
数日後、起きた
特に何も変化はない
いつも通りの真っ暗な世界
声はきこえないけれど、あたしを励ましてくれているような気がする
時々、抱きしめてくれている人たちがいるような気がする
定期的に麻酔をかけられては、何かされる日々が続いた
けれど、何かが変わることはなかった
それはある日突然やってきた
「光だ。」
目がみえるようになった
何年ぶりだろうか
あたしは涙を流した
懐かしい
世界はこんなに明るかったんだ
まだ少しボヤけてるけれど、みえる
嬉しかった
「お、上手くいったみたいだね。」
女性の亜人があたしを覗き込んで来た
白衣を着ている
顔の造形からしてラッコ族だろうとわかった
何かいってるみたいだけれど耳がきこえなくてわからない
ここは病院なのだろう
あたしは治療されているのだ
よかった
病室に、亜人が何人か入って来て、あたしを祝ってくれた
抱きしめてくれる人たちもいた
何もきこえないけれど、雰囲気でわかった
3日後、音がきこえるようになった
「もしもし、きこえてたら、手握って下さい。」
あたしは手を握った
柔らかい女の手
白衣を着たラッコ族の女
握ると握り返してくれた
「よかった。」
女は、にこりと微笑んだ
「あたしはメルト、医者よ。」
話をきくところによると、この人は医者で、研究者でもあるらしかった。
人工多幹性細胞を用いた再生医療で、あたしを治療しているらしい
目と耳は再生した
心なしか四肢も伸びてきているような気がする
未だ声は出せない
「ロテ、耳がきこえるようになったみたいよ。」
病室に人が入って来た
黒い毛並みをした犬族の男だ
ロテという名前らしい
「よかった。はやく元通りになるといいな。」
ロテは目を細めてあたしをみた
とても優しい目だった
「俺はロテ。よろしくな。」
それから1週間が経った頃、話せる迄に回復していた
「あの、えっと、ごめんなさい。声が出せるみたいです。ありがとうございます。あ。」
「謝らなくたっていいのよ。」
「あたし、生きてるんだ。解放されてるんだ。声も出せるんだ。」
「大変だったねえ。よかった回復してくれて。」
あたしは身に余る幸福がこわかった
もう、終わりだと思っていた
なのに、命があって、五感も回復して来て、元通りになろうとしている
「声が戻ったか。」
ロテたちが病室に入って来た
「はい―。ありがとうございます、助けていただいて。」
ロテがあたしを助けてくれたことは、盗み聞きしていた
話せないから会話に入っていけなかったのだ
「いいってことよ。気にすんな。」
ここの人たちは、誰もあたしを虐めない
地球にも、亜人に優しいところがあるんだ
「あの、何処ですか?ここ。」
「ルー大陸西 シユ国だよ。」
ロテは答えた
「シユ国?」
「亜人が作った国さ。」
【地球と亜人の歴史】
・10万年前
地球に人と亜人が誕生した
亜人は数が少なく、1%にも満たなかった
亜人は身体的な特徴の違いから迫害されはじめる
・3000年前
亜人が建国したシユ国がルー大陸西にできる
当時亜人は、人類より進んだ文明を持っていた
・2000年前
人と亜人の戦争が起こり、シユ国は滅びる(シユ戦争)
亜人は国を失い、迫害され、地球人の奴隷にもされた
・250年前
再びルー大陸西にシユ国を建国
国際社会から認められる
実態は、差別が続いているし、周辺では争いが絶えない
世界中で亜人と人類は戦争している
・宇宙開拓時代
亜人が宇宙からもやって来て人口を増やしている
国際社会は表向き亜人を認めつつも、差別迫害し、虐殺もしている
亜人は身体的能力の高さと、賢さ故に、地球社会に多大な功績を残している
世界中の先進国の大企業や政治家、要人の中には、亜人がいる
・ボン財団
地球一の財団
国際社会に大きな影響力を持つ
・ユーリー団
亜人が組織した平和活動団体
人も亜人も分け隔てなく助ける
・ナルゼン
シユ国の民間軍事会社
世界中で酷い目にあってる亜人を救出している
人と亜人の戦争をやめさせ、平和に共存していくことを望んでいる
※ロテとの会話より引用
「俺は、人と亜人の戦争をやめさせたいんだ。」
ロテは、ナルゼンのリーダーだった
今でもそうだ
「素敵ね。」
あたしはロテに憧れていた
「人と亜人が仲良く、地球で生きてくんだ。」
ロテは人を恨んでいたが、人の善性を信じていた
人の中にもいい人はいると思っていた
あたしはロテについていこうと思っていた
ロテとだったら、できるかも知れない
地球でも亜人が認められるようになるかもと
ロテはナルゼンのリーダーだったし、シユ国のカリスマ的リーダーでもあった
みんなロテが好きだった
国結の会議に参加し、人と亜人の平和を希求し続けた
決してテロを起こすような人ではなかった
あの事件が起こるまでは
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