探検家になりたいんだ
「カヨさん、俺、探検家になりたいんだ。」
静寂な空気が張り詰めた
カヨさんは思考停止し、青ざめている
「どうして?。」
2秒と1秒の半分ほど経過した後、カヨさんは口を開いた
怒りと恨みの混じった声だった
「母さんと父さんが命を賭けてしてた仕事を知りたいんだ。」
「マキとジルの後を追うのはやめなさい。あんたを置いて宇宙へ行って死んだのよ。お願いだから目を覚まして頂戴。」
カヨさんは懇願するような目で俺をみつめた
マキは母さんの名前で、ジルは父さんの名前だったらしい
昔、カヨさんが教えてくれた
「死んだかどうか未だわからないよ。もしかしたら会えるかも知れない。」
カヨさんの目から生気が抜けていった
真っ黒な目で、俺の肩に両手をやった
「あの2人にあたしたちがどれだけ苦労させられたか、忘れたの?」
「わかってるよ。」
「リアを置いてく気?あたしを置いてく気?、見殺しにするの?あたしが、どういう思いであんたを育てて来たと思ってるの?此の儘、殺し屋に2人とも殺されればいいんだ?死ねばいいって思ってるんでしょ?あたしはあなたの本物のお母さんにはなれませんでしたよ。やっぱりマキがいいんだ、あたしなんて用済みなんだ、邪魔に思ってたんでしょ。」
気が動転して、ヒステリックを起こしていた
「ごめん。」
「謝ったって行くんでしょ?」
「うん。」
「やっぱ、あんたあいつらの子よ。」
「―。」
カヨさんは頭を抱え込んで、座り込んだ
その儘しばらく、動かなかった
空気が重たい
「あんたマキによく似てるわ。」
カヨさんは、そっと立ち上がると、俺の顔を指でなぞった
不気味な程、優しい表情だった
「マキに、顔がそっくり。鼻とか、この目も唇も、顔の輪郭も。顔は母親似ね。性格も似てる。」
俺は何も言葉で出て来なかった
黙って、カヨさんの声に耳を傾けていた
「どうして、探検がしたいの?」
「何も知らない儘死んでくのは厭だ。俺は人類に何か遺したい。」
「マキも同じようなことをいってたっけね。「未だ人類の知り得ない世界を知りたいんだ、だから私は行くよ。」そういって飛んで、どっかへ行ってしまったわ。」
カヨさんは観念した様子で、俺から少し距離を取って、よわよわしく肩を窄めた
「でも、あたし1人でリアを守れるかしら―、不安だわ。」
「ありがとうカヨさん。」
俺はカヨさんに飛びついた
やっぱり、俺の母さんは、カヨさんなんだ―
産まれの親は違っても、俺を育ててくれたのは、カヨさんだから
「憎らしい子ね。」
カヨさんは俺を抱き絞めてくれた
リアリアは強力な能力だが、リスクも大きい
99人リアリアにした後は一週間、無防備な行動不能のリアを守らなくてはならない
カヨさんは、薬と催眠術で、雇った傭兵を催眠にかけて操っていた
俺の両親が残した数多くの遺産の中にあった、催眠薬と術の書かれた本をカヨさんが復元しコピーした
薬を飲ませ、暗示をかけるのだ
裏切らないように、命令に服従するように
死ねといわれれば死ぬように
殺せといわれれば殺すように
完全な操り人形にする術だ
リアリアにかかった傭兵の3分の1は、催眠にゆっくりかけていく
その間、俺は、飯を作ったり、家の掃除をしたり、見張りをしたり、監視カメラから監視したり、俺達の命を狙う者の調査をして、カヨさんをサポートして来た
3人で協力して、命を繋いで来たのだ
傭兵は累計して2000人以上、死んだ
俺たち3人の為に2000人が死んでいるのだと思うと気が引けた
「あたしにとっちゃ、リアの命が一番大切、次にあたし、そしてキアよ。だから、他人の命なんてどうだっていいわ。」
カヨさんは、全く心を痛めていなかった
これだけ人が殺されているというのに平然としていた
「リアはどう思う?」
俺は、一度リアにきいてみたことがある
彼女が5歳で俺が13歳の時だった
「2人の為に、リアがんばるよ。」
リアはにっこり笑った
天使のような笑みだった
「ごめんなリア。」
俺はリアを抱きしめた
「キア、痛いよ。にゃはは。」
未だ幼いリアに、間接的とはいえどれだけ人殺しをさせているのかと考えると憂鬱にな気持ちなった
そうさせていないと生き残れないことが、何の力もないことが悔しかった
リアは決して、俺とカヨさんを、リアリアにすることはなかった
みつめても、リアリアを発動させなかった
優しい子なのだ
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