死んでも殺してやる

 車で月の砂漠を移動する

 

 しばらくすると海がみえた

 

 「大昔、月兎の祖先が雲を作り出して大雨を降らせたらしいよ。」と、トトが昔教えてくれたのを思い出した

 

 港に着いた

 

 「貨物船に乗せて貰おう。」

 

 貨物船に車ごと積んだ。

 

 1日ほど経つと、月の都がみえてきた

 

 貨物船から降りて、月の研究所へ向かった

 

 「人類は何度も滅びてるのよ。」

 月兎の研究員メメは箱をみつつ感慨深そうに呟いた

【メメ】

 ・月ノ研究所 研究員

 ・性別 女

 

 「3億年前も地球から箱が送られてきたらしいわ。失われた電子記録の解析研究の結果、通説になってるよ。」

 

 「知ってるよ。」

 

 インターネットアーカイブの海にも流れて来る情報だ

 私でも繋がってる

 

 「あなたは、3億年前の地球人が残した箱から生まれた人類の生き残りなのよ。」

 

 「でもどうして月に?。」

 

 「多分、地球の生命体を月の民が欲したのだと思う。」

 

 月には多種多様な動植物がいる

 海を泳ぎ、空を飛び、大地を駆け巡っている

 

 「月の生命体の殆どは、地球の生命体の遺伝子構造、ウイルスと非常によく似通っているのよ。身体の構造もね。」

 

 違和感があった

 疑問が、沸いてきて、混乱した

 

 「わからない、あたしには親がいないのに、どうして生き残りなのか。」

 

 「―。ごめんなさい、あなたは、クローンなのよ。3億年前のイブと同じ遺伝子構造をしているわ。」

 

 「どうして?」

 

 あたしは戸惑った

 

 「面白半分で、あたしたちが作ったのよ。」

 

 「ごめんよ。」

 

 トトはバツが悪そうに眉を顰めて、怯えて、あたしを伺うようにみた

 

 「え?あたしってやっぱり実験体だったんだ。」

 

 「ええ。そうよ。最近月の海底深くで、冷凍保存されていた3億年前の残骸を探検隊が発掘したものだから。面白半分にね。」

 

 「倫理的にクローンは禁止されているからね。許可を取るのには苦労したよ。」

 

 だからあたしは普通の子と違ったんだ

 

 「ねえ、前から恐ろしくて恐ろしくてきけなかったんだけど―」

 

 私はおそるおそる

 知らない方がいいとわかっていても、好奇心には勝てなくて、声に出していた

 

 「月に人類が不可侵なのって、どうしてなの?」

 

 「―、3000年前だったかな。はじめて人類が月へ探査にやって来たのは。」

 ゆっくりとトトは口を開いた

 

 「月兎は、その時、人類を抹殺した。」

 

 「どうして?」

 

 「おそろしかったのだろう。人類は脅威だった。たった2万年程度で、文明を持たない未開の猿から、高度な文明を持つツルピカ猿となって、月にまでやってきたのがね。」

 

 トトは、インターネットアーカイブに流れる大海から、証拠となるデータをみせた

 惨憺たる、人類虐殺の歴史

 映像、写真が残っていた

 

 「未知子にはショックが強いだろうと、インターネットアーカイブに制限をかけていたんだ。あと、脳にもね。」

 

 「まさか―。」

 

 「チップを埋め込んでおいたのさ。」

 

 私は思わず発狂しかけた

 爆発寸前の感情をどうにか押し殺して、思考していた

 

 「おお、流石は未知子だ、冷静だね。」

 

 トトは感心した様子で私をみた

 

 「取り除いてくれ、酷いよ。」

 

 震えた声で、私は縋っていた

 助けてくれるだろうと、未だトトに期待していた

 

 「かわいいかわいい未知子。1人では何も出来ないかわいい子供。」

 

 トトはあたしの頭を撫でて耳元で囁いた

 

 「何にも知らなくていいんだよ。僕たちに言われた通りにしていればいい。これまで通りね。」

 

 「チップは―。」

 

 「わかるだろ?いわせないでくれ、一生チップと一緒、逃れられないよ。」

 

 トトは優しく目を細めて、愛おしい我が子をみるめで私をみた

 身体中に寒気が走った

 

 トトのことをこんなに恨めしく憎らしく思ったのははじめてだ

 はじめて月兎を恨んだ、呪った

 

 私は月の民に生かされているのだ

 実験の為の道具としか私を考えていない、月の民がいないと死ぬのだ

 憎い憎い憎い憎い

 

 何も出来ない自分が恨めしい

 

 「いい目だ。」

 

 トトは私の殺意に満ちた目をみて、嬉しそうに頬を緩めた

 

 「かわいい反抗期ねえ。」

 

 メメは、喜ばしそうに顔を明るくした

 

 「ああ、いい成長具合だ。」

 

 トトは浮かれた顔で、頷いた

 

 「そろそろアダムが完成するわよ。」

 

 「丁度いいね、未知子と交配させてみよう。」

 

 「いいわね、やりましょう。」

 

 「アダムとやらせた後、月の民ともやらせてみよう。」

 

 「いいわね。やりましょう。」

 

 「その後は―」

 

 2人の会話が私を恐怖のどん底へ引き摺り落とした

 いやだ、いやだ、いやだ、いやだ

 

 「未知子にはたくさん、子供を産ませましょうねえ。」

 

 「子沢山はいいことだ。色んな種族とやらせてみよう。」

 

 「やめてよ。」

 

 私は泣きそうな震え声で、訴えた

 

 「かわいいかわいい未知子。哀れで不憫で、そんな未知子が大好きだ。可哀そうはかわいい。」

 

 トトは私の泣きじゃくる顔を堪能していた

 

 「3億年前のアダムから作りしクローンが出来たわよ、名前は偲。」

 

 「おお、出来たか、早速、2人をやらせよう。チップは埋め込んであるな?」

 

 「ええ。今回は成人した状態で作ったからすぐいけるわよ。」

 

 偲はチップで制御されて、自動的に未知子へ近づいて抱きしめた

 

 「やめて、やめてよ、いやあああ。」

 

 私は暴れた

 

 服を脱がされ、唇を奪われ、処女を奪われた

 純潔を穢された

 

 私―、汚れっちゃった

 

 次の日も、また次の日も、やられた

 苦しかった

 死にたかった

 けれど、チップがあたしを死ねないように制御し続けた

 

 ある日生理が来なくなった

 妊娠したらしい

 

 その間は、やられることはなかった

 平穏な日々が続いた

 お腹の子に愛着も沸いていた

 

 数十カ月後、出産の時が来た

 激しい痛みに耐え、私は子を産み落とした

 男だった

 私は嬉しかった

 無事に産まれて来てくれてよかった

 ありがとう

 ごめんなさい

 

 「んぎゃあおぎゃあ。」

 元気な初心声だった

 

 触れようとした瞬間、取り上げられた

 

 「お疲れ様。よくやったね、明日からまたよろしく。僕たちのかわいいかわいい未知子。」

 

 トトは、私の子を連れ去った

 それっきり、一度も我が子に会えたことも、連絡を取れたこともない

 

 また、偲にやられた

 偲をコントロールしているチップに

 

 次に産まれたのは女の子だった

 

 次は、月の民にやられた

 月兎だ

 気持ち悪い

 何度も

 何人にもやられた

 

 子を孕まされ、産まされた

 

 月の蟹にやられた

 月の鰐にやられた

 月の驢馬にやられた

 

 地球人の男共のクローンにやられた

 

 やられて孕まされて、産まされた

 

 111回、出産した

 

 「そろそろ、未知子も消費期限が過ぎましたかね。」

 

 メメは年老いて身体も壊れかけている私をみて、いった

 

 「未知子、未知子、こんなになるまでありがとう、もう楽にしてやるからね。」

 

 トトは私を、人間焼却炉に入れた

 

 生きた儘焼いて、宇宙の藻屑にするらしい

 

 「さようなら未知子、またどこかで会おう、お元気で。」

 トトは涙を流して私を見送った

 

 「お元気で。」

 メメも涙を流していた

 

 許さない

 絶対お前らを許さない

 殺してやる

 殺してやる

 殺してやる

 呪った

 何度も何度も呪った

 死んでもお前らを皆殺しにしてやる

 

 「うぎゃあああああ、あちいいいいい。うげええええ。」

 

 業火に焼かれ、私は灰となった

 月から宇宙に放出され、彷徨っている

 いつかは、巡り巡って新たな星の一部となるのだという

 

 

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