第24話 憎悪の産物

「――何なんですか、あれ? 何であんなこと言われないといけないんですか!?」


 車に戻ったファルは、エンジンをかけるなり開口一番不満をぶちまけた。サングラスと帽子を被った助手席のセルが、その怒りに呆れた声を返す。


「あれがこの国の世論だよ。やっぱり知らなかったんだ?」


 エンジンをかけて、駐車場から車を出したファルは、セルの物言いを聞き咎めた。


「セルは知ってたから、そんな恰好を……?」


「そうだよ。白い髪に青い瞳なんて、典型的な大ソリス難民でしょ? 絡まれるのは分かってたからね」


 それでも一緒に来てくれたセルには、感謝と申し訳なさでいっぱいだった。罪悪感を覚えつつ、しかしファルは疑問を解消したくて、堪らず訊いた。


「どうしてあんなに嫌われてるんですか? レムナリアは元々、難民を積極的に受け入れてたじゃないですか」


「さあね。思想は意気投合できる仲間でも、家族になるほど相性は良くなかった、ってとこじゃない?」


 セルはそんな風に例えて、外から目立たないようにするためか、シートを倒して身を低くした。


「で、そこへ来て今の政権だよ。難民への不満を煽って政権の座に就いて、もう八年くらいかな? あんな感じに憎悪剥き出しの社会の出来上がり、ってね」


「そんな……」


 連邦には存在しない、人種の隔たり。そこから生まれた憎悪を、ファルは受け入れられずにいた。


「でも、カイトみたいにこの国のために戦ってる人もいるんですよ? あんな扱い、酷いじゃないですか」


 感情的な声を上げたファルに、セルは首を振った。


「彼はこの国のために戦ってるんじゃない。戦わされてるんだよ」


「え……?」


「ファル、最初に入った死体、まともな兵士だったと思う?」


 最前線に送り出される兵士の体型ではなかった。ただの中年太りした一般人。その上運動不足だったのは走った時の体力からも明らか。それが共和国軍の水準なのかと呆れたが、考えてみればそんなはずはない。


「カイトも、あの死体も、みんな徴兵された難民だよ。その二人だけじゃない。キャリアーがナノマシンを植え付けた死体は、ほとんどが大ソリスの難民だよ。昨日スーパーで出くわしたのは共和国軍の兵士だけど、まぁ督戦隊だろうね。あいつら、難民が前線から逃げようとしたら、後ろから撃ち殺すんだよ」


「そんな……そこまでして、何で迫害するんですか?」


「そんなの、特に理由なんてないんじゃないかな?」


 セルは伸びをしながらそう答えた。


「まぁ強いて言えば、難民の口減らしになるだとか、人的被害を連邦にアピールして参戦させるつもりだとか?」


 まぁ、そんなことで連邦は味方しないけど。

 セルの補足を聞くより先に、ファルはハンドルを回して、車を路肩に停めた。


「ど、どうしたの?」


 急停車に驚いたセルが、身体を起こす。ハンドルを固く握り締めたファルは、やがてセルの方へ向いて、逼迫した声で言った。


「セル、今夜も実験をさせてください」


「え?」


「一刻も早くこの戦争を終わらせて、カイト達を助けたいんです」

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