第19話 一計
身体を返されたカイトは、すぐに行動に移る。
床に転がった兵士の突撃銃を拾い、家電製品の棚からサンプル品の目覚まし時計を取る。レジ近くの日用品の棚からビニール紐とガムテープを取ると、その場で工作を開始する。
(連中の応援が来るまでどのくらいだ?)
引き金を巻き込んでビニール紐を銃把に巻き付けながら、カイトが訊いた。
(敵は東に五〇〇メートルの地点から接近中。編成はメタノイド三体にイソグサ一体。到着は二〇秒後)
セルが教えてくれた内容を、必要な分だけカイトに共有する。
(おそらく二〇秒といったところです)
(分かった、十分だ)
目覚まし時計にアラームを一分後にセットして、銃把に掛かったビニール紐の先に縛り付ける。ガムテープで突撃銃を棚に張り付け、セレクターをフルオートに切り替えると、目覚まし時計を棚の端に置く。
(よし、できた!)
カイトはスーパーマーケットから飛び出した。近付いてくる足音を聞き分けて、咄嗟に道端の車の陰に身を隠す。
曲がり角から現れたメタノイドは三体。機械蜘蛛のイソグサを一機伴い、電磁小銃を提げて、辺りを見渡す。
イソグサの頭部の生体観測機が、赤く灯る。車体に隠れてセンサに捕捉されないようにしながら、メタノイドに気取られないように、カイトは息を潜める。
そして、その時はやってきた。
店内から目覚ましのアラームと、バイブレーションが棚に響く音が聞こえてくる。メタノイドの関心を一手に惹き付けた次の瞬間、バイブレーションで棚から落ちた目覚まし時計がビニール紐を引っ張り、ビニール紐が引き金を絞る。突撃銃が乱射され、銃弾が一体のメタノイドの腹を撃ち抜いた。
メタノイドはすぐさま応戦した。三体で電磁小銃をセミオートで撃ち、生体観測機を止めたイソグサが、止めにロケット弾を叩き込む。棚を突き破って壁に衝突し、炸裂。けたたましい爆発音とともにガラスが吹き飛んで、熱を帯びた煙が噴き出す。
三体のメタノイドはスーパーマーケットに踏み込んでいく。カイトはその隙に向かいの建物の通用口に駆け込んだ。
(上手くいきましたね!)
(あぁ、何とかな)
窓の外から、生体観測機の赤い光が差し込む。それを避けるように床に伏せて、カイトは建物の奥へ進む。
(さっきのも、母から教わったんですか?)
ファルは好奇心から訊ねた。士官学校でも教わらない手法なだけに、気になって仕方ない。
(あぁ。市街地で実際にやるところを見た。あの時は機械の兵隊を五体、爆弾で吹っ飛ばしたっけな)
(めちゃくちゃですね)
破天荒な母の姿に、ファルは苦笑する。実際の戦場でこそできる即席の囮。攻撃を検知すると生体観測機を一度停止させるイソグサの習性を織り込んだ行動。カイトの優秀さには感心させられっぱなしだ。
(さっきの爆発で、この辺りの兵隊はあそこに集まる。今のうちに街を抜ける。後は頼んだぞ)
(えぇ、任せてください!)
裏口から外へ出ると、カイトはファルに身体を預けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます