第12話 初めての成果
午前七時に日の出を迎えると同時に実験は終了し、ファルの意識はカイトの身体から遠く離れた母艦へと帰還した。
「開始から一時間の間で随分と脳波が乱れているけど、何かあったの?」
セルベリアと二人、昨日と同じように実験結果の提出に赴いた総督の執務室で、ファルは総督からの質問に早口で答えた。
「初めて戦地での死体を実際に見たので、多少動揺しました。今回こそ失敗はしないという気負いもあったかと思います」
「それで余計なこと考えて、こんなに脳波を乱したってわけね」
「はい!」
「甘ちゃんめ。まぁしかし、よく頑張ったね。囮も張られなかったかな?」
「はい、もうばっちりです!」
ファルは得意顔で応じた。連邦軍仕込みのカイトの慎重な行動のおかげで、メタノイドは囮を仕掛けてすらこなかった。本来はカイトの功績だが、口止め料として自分の努力の賜物ということにしておこう。
「実験体はどう? 動かしにくいとか、不具合はある?」
「いえ、問題ありません。身体の相性は抜群です!」
流れに任せて自信満々に答えた。実際、彼が意識を取り戻すまでの間で動かした感触としては、前回の死体よりも遥かに動きやすかった。
とはいえ、相手の身体は男性のそれであり、それは隣に立つセルも知っているし、彼女がまとめた報告書にも記載されている。ファルは得意満面で言ったその言葉に自分で面食らい、段々と顔を赤らめていく。
「そうか、相性抜群か。死体なのが残念だったね」
「いや、そういう意味じゃなくてですね!」
「え、じゃあどういう意味で言ったの?」
ファルネーゼ総督に弁解を試みたところへ、セルがニヤケ顔で冷やかしてきて、耳まで赤くなる。そんな姪から報告書に関心を戻して、総督は本題に戻す。
「この移動ペースだと、海岸まで一週間くらいかな」
「はい。ベヒモスの状態からして、本稼働までには間に合いますね」
小さく頷く総督に、セルは続けて進言した。
「順調に進んだら、軍曹に破壊任務を手伝わせてみてはいかがでしょう? 私も必要ならサポートしますし」
「え……?」
ファルは目を丸くして、セルのいたずらな笑みを認めた。そんな二人の様子など気にも留めず、総督はセルの提案に首肯を返す。
「このまま上手くいけば、ね。ベヒモスを破壊できたら、勲章ものだよ。参謀総局もお前を喜んで受け入れるだろうね」
総督がファルに笑みを向ける。本来なら自分がやりたかった補佐役を、セルがやっていることに複雑な思いはあるものの、期待してくれていることは素直に嬉しい。
「必ず成し遂げて見せます、総督!」
敬礼で応じたファルに、総督は適当な相槌を打ってから、
「で、実験で何か懸念は?」
訊ねた相手はセルだ。ファルは敬礼を止めて、セルの方へ再度目を向ける。
「何も問題はありません。軍曹も前回の失敗を活かして、慎重に行動できていますし、死体の方も状態は良好です」
「あ、そう。なら良かったよ」
引き続き頑張って、と総督が適当に締めくくると、報告会はそこでお開きとなった。
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