第11話 帝国復興への道






「はぁぁぁぁぁ!? 盗んだパンツを渡した挙げ句、俺の目の前でパンツを脱いで履き替えろぉぉ!? この――外道がぁぁぁぁ!」

「ぐぼはっ!」


 深夜――。

 俺達は眠ることなく、今夜の出来事についての話し合いを始めた。


 場所は俺の家。

 リビングだ。


 家には、リノの魔法で飛んで帰った。

 ――夜空を飛ぶ。

 それは本当なら、一生の思い出になるような出来事だが、非常事態が続きすぎて普通に受け入れてしまった。


 そして今、俺は天井を突き破って、再び空を飛んだ。


 まあ、リノに蹴り上げられただけなので、やがて元の場所に墜落したが。


「変態! 変態! エロスケベ!」


 リノが罵声を浴びせてくる。


 俺は冷静に身を起こすと、破壊された天井を見上げた。


「……おい。リノさまよ、すぐに魔法で直してくれるんだろうな? 直さないなら明日こそ粗大ごみ行きだからな」

「う。わかってるわよー。もー」


 リノが魔法で天井を修復してから、俺は話を元に戻す。

 ちなみに俺は無傷だ。

 ダークパワー、恐るべし。


 下着についての誤解は、サヤに解かせる。


 今、俺の部屋にはサヤも来ていた。

 すっかり汚れてしまった衣類は脱いでもらった。

 今は洗濯機の中だ。

 我が家の洗濯機には乾燥機能もあるので、やがて着替え戻せるだろう。

 今は俺のシャツと短パンを着せてある。


 ちなみにサヤは、白髪、白耳、白尻尾のままだ。

 力が抜けてすぐには戻れないらしい。


「……なるほどね。まあ、とりあえず、そういうことにしておいてあげるよ。私も鬼ではないから」


 俺が無罪であることが納得できないようで不承不承だったが、とりあえずリノは真実を理解したようだ。


「で、だ」


 俺はあらためて、サヤに目を向けた。

 俺達は三人、床に座っている。

 俺に目を向けられると、サヤはビクンと全身を震わせた。


「まずはおまえ、サヤと呼ばせてもらうが、いいな?」

「う、うん……。いいけど……」

「俺のことも特別にタクヤさんと呼ばせてやる。いいか、さん、だ。おまえは俺に敬意を払え。いいな?」

「うわっ! 鬼畜。女の子の弱味につけこんで、なんなのこの男!」

「いいからリノは、しばらく黙っているように。別にこれは、取って食おうという話ではないのだ」

「……なら、なんなの?」


 サヤが上目遣いで大人しくたずねてくる。


「おまえには責任を取ってもらう。当然、取る気はあるな?」

「それは……。まあ……」

「よし。ならば良い。では、まず聞け。おまえが学校で話しかけ、俺の領域を侵犯したことで、平穏だった俺の生活は大いに乱れた。今や俺は、クラスでは、まるで悪者扱いだ。今まで何事もなくタクヤ帝国を築けていたというのに、おまえのおかげでそれがすべて砕けた。おまえにはまず、この俺のタクヤ帝国を復興させる手伝いをしてもらう。いいな?」

「どうすればいいの……?」

「決まっている。まず、毎朝、クラスで俺に挨拶をしろ。いいか、タクヤさんおはようございます、だ。言ってみろ」

「タ、タクヤさん……お、おはよう、ございま……す……」


 サヤは素直に繰り返して言った。

 照れはあるようだが、まあ、合格で良いだろう。


「次に昼だ。俺に毎日、手作り弁当をよこせ。いいか、決して強制しているわけではないぞ。あくまでも自主的に、だ。タクヤさん、実は私、タクヤさんのためにお弁当を作ってきたんだけど、あ、ううん、ちがうの! ちょっと作りすぎちゃったからアンタにあげるわ! ありがたく受け取りなさい! どうだ、おまえに相応しいツンデレ台詞だろう? さあ、言ってみろ」

「うわ。キモ。キモキモキモ」


 リノがいちいち横から口を挟んでくる。


「いいからリノさまは黙っていて下さい。さあ、サヤ」

「……タ、タクヤさん、実は私……。タクヤさんのために……お弁当を作ってきたんだけど……。あ、ううん……。ちがうの……ちょっと作りすぎちゃったからアンタにあげる……わ。ありがたく受け取りなさい……」

「うむ。まあ、いいだろう。これによって、俺とおまえが実は仲良しであることを大いにアピールし、俺の地位復権を行う。いいな?」

「わかったわよぉ……。なんでも言う通りにするから……。ねえ、お願いだから私のことは言わないでほしいの……」


 サヤが前のめりになって、涙目で訴えてくる。

 俺は腕組みして答えた。


「ふん。それについては固く約束してやる。俺は、女の弱味につけこんで好き勝手するような卑劣漢ではない」

「うわ。今まさに、女の弱味につけこんで好き勝手しているヤツが、一体、どの口で言っているんですかねえ」

「だから最強無敵のリノさまは黙っているように。今は大切な話をしている。あと、呼び方と挨拶だが慣れてきたらラフにしてくれて構わない。最終的には、あ、タクヤ、おっはよー、くらいで良い」

「はい……。わかりました……」

「弁当については、そうだな……。まあ、九日でいい。適度なところで俺がやんわりと断ってやる」

「もー! タクヤ! サヤの尻尾がシナシナになっちゃってるでしょー! いい加減にしなよー!」


 リノが怒鳴ってくる。


「まあ、よかろう。では、気を取り直して次の話題だ」


 タクヤ帝国の復興については、一応の目処が立った。

 サヤについては、ここまでにしておいてやろう。


「……え。まさかタクヤ! 私にもまたエッチな要求をするつもりなの!」


 胸をかし抱いてリノがのけぞる。


「俺がいつそんな要求をした」

「今朝。タクヤくん、私をお求めになられましたよね……?」


 それは君の誤解だ!

 俺はそう叫びかけたが、喉の奥で留めた。

 髪に触りたかっただけではなく、求婚もしていたのだった。

 コホン。

 俺は息をついて、気を取り直した。


「とにかく俺のことだ。俺は一体、どうなった?」

「……美少女二人を自由にできそうだから、性欲が溢れそう? お願いだから正気に戻ってタクヤくん!」

「頼むから真面目に答えてくれ」

「あ、うん。ごめん。そうだね。タクヤに正気なんてなかったよね。私、完全に勘違いしていたよ」

「なあ、俺は一体、どうなったんだ?」


「ねえ、タクヤくん」


 リノがニッコリと笑った。


「なんだ?」

「話、完全に変わっちゃったけどさ。その前に一言くらい、なにかあってもいいのではないでしょうか?」

「だから、なにがだ?」

「私的に、すごーく気を使って。わざわざおちゃらけてタイミングを作ってあげたつもりなのですが。落ち込んだ女の子に対して、キミは優しさとか思いやりを持つことができないのかな?」

「はっ! なにを言う! この被害者の俺に向かって!」

「あーもう。これだからざこは」

「なにがざこだ。また、ざこざこキックでもするつもりか?」

「してほしいならするけど?」

「ふん。するならしてみろ」

「じゃあ、やってあげるよ。お望みとあらば」


 リノが浮き上がる。


 コサックダンスのような姿勢を取ると、左右の足を交互に伸ばし、足の裏を俺の肩にぶつけてきた。


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