第6話 勝負の時。コレとは?
待ち合わせ場所になっていた駅前広場にある偉人の胸像の前に、すでにクラスメイトは来ていた。
「あの子だよね?」
リノも気づいたようだ。
「ああ」
俺は冷静にうなずいたが、さすがに緊張してきた。
とはいえ、ほらこれが俺のカノジョだ、とリノを紹介して、それで帰るだけの簡単な仕事だ。
さっさと終わらせてしまおう。
「行こうっ!」
俺の腕を取って、リノがクラスメイトの元に走る。
「待て、リノ。心の準備が。まずは深呼吸をだな」
「そんなのいいから!」
俺は、そのまま連れて行かれた。
むう。
そうして、クラスメイトの前に来てしまった。
いかん。
まずは落ち着け、俺。
ヤツは、腰に片手を当てて、いかにも勝気な態度で俺達を待っていた。
面立ちも、そのまま気が強そうだ。
服装はショートパンツにシャツ。
パーカーを羽織っている。
足は、これは登山靴か?
場違いに重厚そうな靴をはいている。
そんなヤツの手を、いきなり正面からリノが取った。
「こんにちはっ! 私はリノ! よろしくね!」
リノは満面の笑顔だ。
「え、ええ……。よろしく……」
「キミの名前は?」
「私? 私は、四十宗家……サヤ……だけど……」
「しじゅうそうけ? なんかカッコいい名字だね」
「……そう? ありがと。一応、名家だしね」
「サヤって名前も、なんかカッコいいね! なんて書くの? 剣の鞘? それとも小さな夜とか?」
「早い矢と書いて、早矢だけど……」
「へえ! そうなんだー!」
「え、ええ……。ねえ、貴女……。『力』の持ち主よね?」
くくく。
俺は心の中で笑った。
ヤツめ、完全にリノのペースに呑まれたな。
最初からシドロモドロだ。
これは勝った。
いや別に勝負をしているわけではない。
リノを紹介したならば長居は無用。
さっさと帰って、今日はオンラインゲームで一日を過ごそう。
「あ、うん。わかるんだ?」
「目をしっかりと見ればね」
「私もわかったけど、サヤは魔力持ちなんだね」
「私は――。退魔師をしているわ」
「へえ。それってどんなのなの?」
「あ、うん……。その、悪霊とか、憑き物を祓ったり、とかね……。リノは外国の人みたいだから知らないとは思うけど……。これでも一応、四十宗家と言えばこの国の退魔師のまとめ役なのよ」
「へえー、そうなんだー。私、知らなかったよー。すごいんだねー」
「リノは一体、どこの誰なのかしら?」
俺は動揺することなく、冷静に話の内容を分析する。
いきなり最初から妙な単語が続いた。
魔力。
退魔師。
悪霊?
どこのファンタジー時空の話だそれは。
しかし、そう。
どこの時空かと問われれば――。
ここは、数奇な運命によってこの俺が一人暮らしを始めてリノが転がり込んできたそんな時空だった。
「私は、アレかな、アレです。コレのお世話というか、ね。コレが混沌に沈むのを阻止するために来たの」
「ああ、コレかぁ。そっか、なるほどねー」
「というと、サヤも?」
「ええ……。学校でコレを見てね、なんか違和感を覚えて、しばらく観察していたんだけど……。やっぱり憑いている気がしてね……。それなら落としてあげたほうがいいかなぁと思って」
「そうなんだ。あれ、でも、恋人とか気にしてたんだよね?」
「え。ああ、それは……。上手く話を持っていけなくて。なんとなく聞いただけなんだけど……。そうしたらコレがさ」
「あー、うん。聞いたよー。ごめんねー、嫌な思いさせて」
「ううん。リノに謝ってもらうことじゃないし。ていうか、リノはコレの恋人でもあるの?」
「え。まさかー。やめてよー」
「そうよねー」
あはははは。
一瞬で打ち解けて、二人が楽しそうに笑う。
ちなみに先程から出てくる「コレ」とは、確実に俺のことだ。
俺は冷静に話を聞いていた。
俺は現代の賢者。
この程度のことで怒るほど短絡的な男ではない。
しかし、ヤツ。
サヤか。
思いの外、朗らかに笑うようだ。
「ねえ、リノ。それなら話は早いんだけどさ。これから私の家に来て、コレに憑いているものを祓わせてくれない?」
「何か憑いているの? 私にはわからないけど」
「ごめん。私にもハッキリとはわからなくて。でも、やるだけやるのは損にならないと思うのよね」
「でも、危険かも知れないよ……。コレが抱える暗黒の密度は、本気で将来、魔王になるくらいだから。あーでも、そっかー。それでコレが真人間になるなら私もお願いしたいかなぁ」
「よし、決まりねっ! それなら早速行きましょ。うち、山の中だから最後は少し歩くことになるけど、タクシーで行けば山までは遠くないし」
「おい。待て」
ここで俺は遂に会話に入った。
「俺のことを勝手に決めるんじゃない。なんだその、憑いているだの憑いていないだの気持ち悪い話は」
「いいからいいから。やってみて損はなさそうだし、ね」
リノは気楽に笑って、不意に俺に手を向けた。
「はい、魔法です。『昏睡』」
それは言葉の通り、魔法だったのだろう。
俺は意識を失い――。
気づいた時には。
郊外の山の中。
どことも知れない古びた神社の境内で――。
何故か。
大きな四角い岩の上で、仰向けに寝かせられていた。
手足は動かない。
地面に打ち付けたペグから伸びたロープで、がっちりと固定されていた。
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