探偵は読者に明かしていない手がかりによって事件を解決してはならない。
一月。ベルを間近で感じ、アッシュと出会って、衝動が湧き上がった。身寄りのない子どもを自分だけのものにしてしまえば、どれだけの快感が待っているのか、確かめたくなった。彼女に惹かれたのは嘘ではない。己と同じ価値観を持っているのでは、と興味が湧いたのだ。
二月。テルの手紙にも同じ匂いを感じた。確かに死体収集には美徳を感じ得た。が、凡人が頑張ってこちらに合わせているようだった。彼らがどれほど努力をしても、自分には到達することはない。せっかく薬を口に含んでやったのに、これでは拍子抜けである。
三月。樽場は正義の塊のようで、価値観を押し付けてくる父に良く似ていた。そのような彼を変えてしまう男に興味はある。残念ながら接点は薄かったので、長くは話せなかった。望月は計画性もあり、己の欲望も実現できている数少ない人物である。
四月。神だと思っていたあの小さな家の主人。供物を頂くことに対して否定はしない。だが見目だけはそれなりに纏まっていたが、そこには薄汚い食い意地しかない。すべては与えられるものだと勘違いしてしまえば、そこで慢心してしまう。
五月。少女は信念があった。ただ残念ながら生き急いでしまった。美しさは数日で出来上がるものではない。感情との整理が付かなくなってしまったのだろう。若さは道を見誤る。かつての自分がそうであったように。
六月。雨女の涙は捻じ曲がっていたように見えただろうか。否、自分にとってはそのズレは理解できるものだった。純粋で美しいものだ。しかし。己には口惜しくも、親友と呼べる人物がいない。やはり、理解はできない。
七月。母の愛は、いつかは薄れていくものだ。早々に見限った自分では、そこに共感はできなかった。親というものは子どもではなく世間体を気にしている。本心を認めないのなら、こちらも歩み寄るべきではない。ただしあの幼さは無垢で美しい。
八月。蔓延する血液の匂いの中、平然と、優雅に筆を運ぶ姿には羨望だった。そこまで環境が揃っていながら彼は手に入っているものをいまだ欲していた。こちとら喉から手が出るほどだと言うのに。自己中心的な考えは、罪にも似ている。
九月。完璧を求め過ぎた常人は、双子に殺された。自らが招いた結果だ。恐らく悔いはないだろう。彼女たちは姉妹揃って美しい。惜しむらくは妥協を知ってしまったこと。凡人の夫と、付き合ってしまったことだ。
十月。アッシュが空藤 旭比の息子だとは驚いた。少しばかり雰囲気は似ていたが、まさかそうだとは。それに血友病なる病気を持ち合わせていたとは。若干ながら焦りを覚えた。なぜなら一月、あの病院で、少年の腹を裂いたのは自分だったからだ。
十一月。彼女は息子を本当に愛してはいなかった。完全に物として扱っていた。そうでなければ守るためとは言え、子どものほうを動かしたりしない。大切な獲物は、自分から前に出て守るべきである。
十二月。呪いも悪くはない。ただ愛が足りなかった。人を呪わば穴二つ。沼に嵌まっておくべきだったのだ。己の損得を考えてしまえば、彼女は足を掬われる。彼女自身に美しさはない。物言わぬ石だけが、本当に美しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます