琳琅珠玉

『それをこんなにも持っているなんて、アタクシの権力と地位を確立しているようで素敵でショ? あとアタクシ、自分から手を下したことなんてないのヨ? 彼らが勝手にやったこと。アタクシは知らないワ』


「ええ、美しいですね」美学に対しては肯定的な少年がすかさず認定する。「けれど、手を汚していない、のは嘘ですね?」


 アッシュの言葉を皮切りに瑞玉の笑顔がすっ、となくなった。冷たい瞳で黒い肌の少年をねめつける。しかしすぐに口の端を吊り上げ、愛おしい息子を見るような表情を作る。アッシュがどのような言葉を発しても、子どもが何か言っているぞ、という感覚だろう。


 ただし口を突く言葉は、どうせ意味は通じないけれど穏便な物には感じられなかった。


小崽子シャオツァイツ! 何を言い出すのかと思えば――』

「スナイパーライフルを撃ったのは、貴女ですね? ルゥイユー」

「おっと、もうそこまで言っちゃう!?」


 路地裏で見つかった遺体付近、踏み荒らされた足跡は複数人のものだった。そのどれも同じ靴、同じサイズで巧妙に隠されていた。


 出入り口はビルの勝手口。店内に入ってすぐの床板が外れるようになっており、この屋敷へと繋がっていた。また途中で向かいのビルの床下にも繋がっており、射撃犯はここから別行動したと思われる。通路が一緒である以上、共犯者であるのは間違いなかった。


 ビルの屋上に残っていた靴跡をよく確認すると、サイズが若干違うことも分かった。一回り小さな靴、一人分だけは明瞭に下足痕が取れた。状況的には恐らく、瑞玉が狙撃手であろうことが見えてくる。


 被害者の男はこの地獄絵図を勝ち取ったのだ。そうして賞品を持って外に解放された。宝石の他に賞金も工面するから、その間に街でもぶらついてくるのが好かろうと、彼女の口車にまんまと乗せられた。そうしてのこのこと、辮髪集団から別れた場所に再び戻ってきたのである。己にこの先、何が待ち受けているのかも知らずに。


『証拠はないでショ!? 目撃者も周りの店も、そこら一帯は全部買収したのだから! 你们ニーメェンシァー!』

「あ、こりゃマズいぞ」


 謎の掛け声を合図に、強化ガラスが持ち上がる。蠍人間たちがぞろぞろと乗り込んで、思い思いに獲物を拾い始めた。血錆の刃よりも鋭い眼光のほうが幾らか人を殺しそうである。


「石を渡しなさい、成神チァンシェン グゥァン


 ボディーガードの後ろに付いて彼女は、貫の元に闊歩する。細い指でタンザナイトを指し示した。素直に渡さなければどうなるか分からない。けれど、渡したところでその後どうなるかも分からない。


 無意識に、貫の手は腰に引っ提げた拳銃に伸びる。こういうときのために、先ほどの大男との戦闘では使わなかったのだ。できればこの状況でも使わないに越したことはない。


「ルゥイユー、では冥途の土産にひとつ訊いてもいいですか?」


 その質問には、内心苦虫を噛み殺すほど貫は嫌悪した。


 一歩間違えば火に油を注ぐ行為である。だがアッシュはこちらの心配など目もくれず、上手く間を取って相手に反論させたり考えさせたりする暇を取らせなかった。瑞玉は小さな口を開いたが、結局何も言い返すことができなかった。


「なぜ一度、優勝者を解放するのです?」


 瑞玉は片眉を吊り上げて回答に逡巡を見せる。しかしそれも一瞬で、納得したように唇を動かした。


「……まあ、いいワ。石に成功を刻むためヨ。呪いばかりでは、アタクシの傍には置けないの。ご存じ? 宝石は持ち主の感情をすべて溜め込む。アタクシは呪いを封じ込めて、栄光を取り出すの。それでいままで、事業を成功させてきたのヨ」

「ああ、そうだったのですね」


 アッシュはその答えを聞いて、興味を失ったように目を伏せた。強靭な男どもを前にしても、いまや眠たげである。これがまともな高校生活の昼下がりなら。試験を早めに解いてしまった少年の、正常な反応に見えた。


「ではルゥイユー。オレたちはこれで失礼します」

什么シェンムァ!?」

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