玉となって砕くとも瓦となって全からじ
空想の話では妖怪や化け物が封印された岩などが存在する。たいていはトラブルの種だ。破損しただの誰かが動かしただのと適当な理由を付けて、太古の大怪物が復活する。
だがそれはフィクションの世界。ただ、アッシュの物言いからは現実味を感じざるを得ない。ブラックジョークよろしく真実を語る少年だからこそ、それは芝居のセリフでないことが分かる。
「呪いを掛けられた物です。その大半が、初めに悪人ありきなのですがね。盗難や殺人によって奪われたからこそ、所有者の害意が宿る。それを求めている輩もいるようですよ」
「非科学的だな」
化学的物質に非科学的なものを乗せている。人の業は計り知れない。実際に呪われているかは別として、たったひとつの石を奪うために略奪した歴史がある。単純に金になるのもそうだが、権力の象徴にも成り得るからだ。
アッシュの口から呪いだの何だのとの言葉が飛び出したので珍しいと思った。が、その実はやはり空想を見ているわけではなかった。
「科学的かどうかは関係ないですよ。コレクターにとっては、過去さえ封じ込められればいいのではないでしょうか。流した血の数を価値に付随していく。宝珠も凝縮して作られるなら、呪いも凝縮してしまえばいい」
空気の玉を褐色の両手で包み込み、ぎゅっと握る。炭素を圧縮すればダイヤモンドになるなんて物語は、現実には有り得ない。実際のところ二酸化炭素は少年の指の間から漏れて大気に溶けていった。
「こうして作り出せるのは、人工ダイヤなのですがね」
「人工でも、ダイヤには変わりないんじゃねーか?」
「そう、そこです!」
弾かれたようにアッシュがこちらを見上げるので、貫はたじろいでしまった。アッシュブルーの双眸が真っ直ぐ射抜く。
「人工でも価値がある。鉱石は案外簡単に作れます。では容易に精製できない人の呪いは、どう付与すればいいと思いますか?」
「えぇ? そ、れは……」
ただ単純に興味本位で訊いている。生徒が師に教えを乞うように、清い頭脳で不穏なことを問う。貫の頭では彼の求める答えを出せるか分からない。こちらも純然たる態度で、思考を曲げることなく伝えるだけだ。
「本当に奪い合ってもらう、とか?」
暗闇の中でキョウジは蹲って震えていた。暑いのか寒いのか分からない。ただ恐怖のみが体中を汚染している。
あの土地を売って有頂天になっていた。何もない場所だから、買うと宣ったときには驚いたが、それも瑞玉からの申し出だからと元々の所有者に無理を言って何とか契約を終わらせたのだった。その大きな仕事も一段落した数日後、キョウジは何者かに連れ去られた。
いや、正体は分かっている。あの辮髪集団は、日本のどこを探してもあの屋敷にしかいない。
「鋒 キョウジさん、ですか?」
「ヒッ!?」
急に忘れかけていた自身の名前を呼ばれて身構える。驚きの余り悲鳴が漏れてしまったので、キョウジは口元を覆った。
ここでは誰かに見つかってはいけない。殺されてしまうからだ。どうやらこの空間は、目の充血した殺人鬼がうようよいて、常に誰かの断末魔が聞こえている。それも最近は聞こえなくなったと思っていたのだが。
いよいよここまで来たかと彼は、死期を悟った。
「安心してください、警察です」
「……は、へ?」
予想外のことを言われたので、キョウジは間の抜けた声を上げる。糸目に涙を溜めて男が差し出した何かを見れば、『
「けい、さつ……?」
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