懐玉有罪
「そう解釈しても差し支えないかと。彼はどこかで大金を手に入れた。問題は場所ですね」
しかしすぐに謎が出てくるのでさほど気にすることでもない。
「どれほどの金額が手に入ったのかは分からないが、少なくとも借金返済額と、プラスして裕福な暮らしを送れる算段はあったってことだろうな」
「融資を受けられるほどの人間の器ではなさそうです。現在の資産もなければ有望株でもない。内臓には損害なし」
少年の唇が紡ぐ通り、言っては悪いが本当にこの男には五体満足以外何もない。ギャンブルに嵌まり借金に埋もれ、人間関係さえも壊した被害者。警察側が思うことではないけれど、いなくなっても特に困らない人物だった。
「ま、考えてもしょうがないし。四課から高利貸しの情報は、と――」
「成神警部補」
「おわっ!?」
資料を読み込んでいた貫に急に声を掛けたのは、いつか見た四課の女性警官だった。ショートカットを小刻みに揺らしてツカツカ歩み寄ってくる。初めて会ったときは夜だったのでまじまじと観察できなかったが、女性にしては長身で筋肉も薄くついており、表情は厳しいが根は優しい感じがした。さすがは暴力団と隣り合わせの部署に勤めるだけはある。
「失礼、驚かせるつもりは……」
「あ、いえ、こちらこそ!」
彼女は敬礼をし、謝辞を述べる。貫もそれに倣って返礼した。
「どうかされましたか?」
いつだって雰囲気をぶち壊すのは第三者であり、そして子どもである。無粋な純粋はこの場には必要ない。事件現場のためもとよりムードもないが、ここから始まる何かもあるはずだ。
――いや、いけない。瑞玉にあてられて、自分も相手を探してみたいと思案するようになっている。
「新しい情報です。口頭で恐れ入りますが……被害者は、宝石を換金していたようです」
「宝、石?」
「ただ単体での価値はそれほど高くなく、いわゆる屑石と呼ばれるものです。持って行った量が多かったので、質屋も何とか換金したそうですが。その際、一際大きな耳飾りを所持しておりましたが金に換えることはなかったようです」
「非効率ですね。どう考えてもその装飾品を質に入れるほうが金になると言うのに」
会話はいつの間にかアッシュへと引き継がれる。いつもの癖で細い指を顎に遣って考え込んでいた。その思考に助け舟を出したのは婦警の彼女である。
「持っていれば幸運が、とか、勝ち取った、とか言っていたようですが。これ以上詳しいことは聞いていないとのことです」
それでは、と言い残して彼女は他の捜査員の元へ行ってしまった。同じ報告を繰り返しさせられているのだ。それにもめげずに真っ直ぐ前を見つめる瞳が、貫には痛々しく感じる。自分も舐められているものの、男社会だからこそどうにか組織に食い込めている。性別の壁は思ったよりも分厚かった。犯罪に対しては、男女関係なく起こっているというのに。
「幸運をもたらす宝石、ですか。人は見目麗しいものに願いを掛ける傾向があるのですね」
「ま、神秘的に感じるんだろうよ。大岩でさえも、山の上にあれば勝手に誰かが祀ってくれるし」
「
「いわくつき?」
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