白玉微瑕
急いで手元の資料を繰って立地を確認する。片側二車線、合計四車線の道路を挟んだ現場の向かいには、
およそ一般人では手に入れられない――もとより銃器はほとんどの人の手に入る代物ではないが――ものが使用されている。この先の緊張を感じ取り貫は無意識に喉をごくりと鳴らした。
「そこからならこの路地、ないしは被害者を一望できるでしょう。何か残っているかもしれません。何もなくとも行く価値はあります。もうすぐ夜が明けますし、手がかりが見つかったら、イズルの功績ですよ」
貫の手柄だとは宣ったが、実際に言葉を拾ったのは彼だ。少年の憶測は、どうにも当たる。普段は誰も寄り付かないようなビルの屋上に、真新しい足跡が見つかったのである。冬のイルミネーションもチカチカと競い合うように夜を照らしていたが、やはり太陽の光には敵わない。明るみに出ることで見えてくるものもある。
果たしてこれが
「イズル、新しい資料が回ってきています」
「……おう、助かる」
寝息が止んだのをいち早く察知してアッシュが手早く仕事を寄越した。さすがは地下牢で耳だけを
貫は眠気眼で細かい文字を読み込んでいく。まずは一枚目、被害者の男について。
特に代わり映えする情報はない。どうしたって、個人を特定するものが一切ないのだ。それに被害者の物品を回収したとされる犯人に関しても目撃証言や証拠がない。勇敢な同僚が裏社会の門を叩いたようだが、怒鳴られるか知らないの一点張り。情報を持っていても警察風情に教える気概はないだろうが。早々に読み解くのを諦めて、次のページを繰った。
二枚目は屋上の鑑定結果についてだった。
わずかに残った証拠については、どうやら立派な仕事をしてくれたらしい。が、肝心の犯人特定までは至ってないようだった。
「一直線の足跡、大量生産の靴。これじゃ、どこの誰が来てたのか分からんね」
「相当な手練れ、ということしか明確ではありませんね。足取りに迷いがありません。目的までの位置を把握していなければいけない状況で、いい加減な場所での狙撃は非推奨です。ならば初めから獲物がここに来ることを予測していた……」
「大人しく路地裏にじっとしてたって? 人気のラーメン屋でもあるまいし、順番でも待ってるわけでもないだろ」
男が死んでいたのは何の変哲もない
犯人が呼び出して、相手を待っている最中で撃たれたのか。その程度しか考えられる範囲がない。
「でも屋上の靴型は現場のものと一致したのか。やっぱり同一犯ってことなのか?」
そうなるとリスクを冒してまで弾丸を探しに来たことになる。ご丁寧に人気のないところに呼び出しておいて、だ。それに路地裏単体では確かに人の目は少ないが、駅近で車道も含む大通りに面しているし、決して人っ子ひとりいないわけではなかった。
今朝方よりかは若干冴えた頭で、事件の経緯をもう一度確認する。
「同一犯だったら……最初に屋上で狙撃。ガイシャが絶命してから弾丸を回収。わざわざ道路を渡って。人目につかないように殺したヤツの行動とは思えないが……」
だが屋上に狙撃の痕跡がある以上、それは動かせない事実になった。新しい情報は喉から手が出るほど欲しいとはいえ、厄介なものだ。同じ靴跡が違う場所にある。貫は屋上の資料を見るのを一旦やめて、三枚目の路地裏の見取り図へと目を遣った。最初にもらったものとは少し違い小綺麗に整頓されているが、それでもほとんど変化はなかった。
「うーん、こうもたくさん
「どうしたんですか?」
しばらく貫の思考が止まったのを受け取って、アッシュは質問を投げる。時間にして、ひとつ目を
「どうしたもこうしたもない! ないんだよ、下足痕が!!」
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