#4
翌朝目が覚めると、窓の外は雪に埋もれた銀世界だった。
比較的温暖なこの地域では珍しい積雪に目を輝かせた俺は、身支度もそこそこに部屋を飛び出すと玄関へと向かう。
今日はクリスマス。
待ちに待った荘厳で偉大、祝福に満ちた聖日。
昨日の悪夢はただの悪夢、きっとパパが解決して弟と笑い合う今日を思い浮かべた俺は、まだ見ぬ弟よりも先に楠にぶら下げた靴下を目指す。純白の雪に足を入れるたび、クグ……ッとくぐもった音が響く道を踏み分け、ひたすら目指すその木が近付くたびに鼓動が高鳴る。
──早くアリーシャに会いたいなぁ……。
こんなにも特別な出来事なんて、そうある事じゃない。そんな時に雪遊びをする相手すらいない俺は何処を見ても変わらない庭の景色をぼんやり眺めながら楠の前に立った。
「うわぁ……」
極彩色に飾られたソレは白粉を塗りたくったように厚化粧し、吹雪に埋もれてしまった装いが寒そうに俺を見下す。これではプレゼンどころか、靴下を見つけるのも難しいと判断した俺は、力一杯太い幹を蹴り付ける。
ぐらりと揺れてはドドド……ッと重荷を振り落とした楠はやっと見事に着飾った装飾を披露すると、そのまま真ん中に据えられた俺の靴下を目掛けてそそくさに飛び付く。冷え切った枝を注意掴んで足を進める俺は、凍てつくような靴下の先をやっとの思いで握ると、広々とした視野に目を輝かせて雪化粧を眺めた。
「おーい……ッ!」
静かな世界に聞き覚えのある声が響く。その声は酷く切羽詰まった痛々しい色を帯び、理解せぬまま聞いただけで少し恐怖心が芽生えるような響きを孕む。
雛鳥が親鳥を呼ぶような声を探って木の上からぐるりと辺りを見渡すと、四方から続く足跡がただ一点、門扉の前へと刻まれている。
──もしかして、アリーシャが帰ってきたのか?
屋敷の玄関に屯ろする人集りを求めて楠を慎重に降りた俺は、手に入れた靴下を握りしめて雪の布団に飛び込む。それなりに図体は大人に近付いた俺も、こんなに降り積もった雪の前では子供じみた好奇心を丸出しにして人の気が集まる場所へと駆け出した。
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