第57話 好きなタイプ
「五月くんはどうしたら私に振り向いてくれるんだろうな~」
ブランコを揺らしながら、渚さんは悩ましい声を上げる。
「それ俺に聞きます?」
「本人に聞いた方が早いでしょ!」
「恥じらいも何もないですね!」
好きな人にどうやったら自分を好きになってもらうかを聞くとか鋼の心をしてるな。
アイドルとしていくら表舞台に出てメンタル面で鍛えられているとしても、それとこれとでは話が違う。
「難攻不落すぎるんだよ五月くんは! 私がどんだけアピールしても振り向くどころか蔑んだ目で見られている気がするんだけど!」
と、渚さんはムーッと顔をしかめ、地団駄を踏む。
「蔑んだ目で見てたのは最初くらいだと思うんですけど……」
「なんでこんな美少女から迫られてそんな顔ができるの!」
単純に恐怖心の方が強かったからに決まっている。
ストーカーをされて、勝手に通帳まで作られ、身の危険を感じてたからな。いくら美少女に対してでもそんな目を向けたくなる。
「最初から猛スピードで来たら誰だって引きますよ」
「でも……あのゴミを見るような五月くんの目……ゾクゾクしてちょっとよかったかも//」
じゅるりと垂れたよだれを拭く。
「ダメだ、やっぱ怖い」
隙を見つけるとヤバいやつになるのはただでさえ周囲の目に気を遣うのに、更に重荷になりかねない。
まぁそれよりも気になるのが……つり合いなんだよな。
渚さんが気にしなくても、俺は気にしてしまう。もし逆の立場であったら、俺も渚さんと同じことを言うだろう。
物事、上にいる人は気にしなくても下にいる人は気にしてしまう。人間とはどうしても気を遣ってしまう生き物なのだ。
「もしかして、五月くんはツンデレの方が好きなタイプ? それとももっとヤバい女がタイプなの?」
「ヤバい女だったら渚さんは当てはまってますよね」
「じゃぁ!」
「そうゆうことじゃないです」
即答する俺に、ムスッと不機嫌な顔を浮かべる。
「もう~! 五月くんのタイプすら分からないって、私詰みなんですけど~!」
「タイプか……」
ここでの最適解は『渚さんみたいな人』だろうが、到底俺にはそんなカッコイイセリフなどは言えない。ただのくさい男になってしまうからな。
一部性格を除けば渚さんはタイプの人だ。何かと性格は合うし、甘えられたい俺からしたら、デレデレしてくる渚さんはピッタリだ。
でもそれが言えないのが、苦悩だ。
いくらくさいセリフで伝えたっていいのに、様々ことを深追いしてできないのが俺なのだ。
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