第56話 絶対に落とす告白だったんだけどなぁ~
……今ふと思ったけど、普通に渚さんと話しているな。
最初はストーカーされていたことや、通帳を作られたりヤバい奴だと認知して嫌悪感や不信感を抱いていたが、今はそんな感情全くない。
渚さんの行動や言動がさほどおかしくないからなのか、俺がそれに慣れているだけなのかもしれないが、要らない感情を抱くことなく話している。
俺の渚さんに対しての心変わりがあったのは……やっぱライブからだよな。
「てか五月くんに聞きたいことあったんだ私!」
足で急ブレーキをかけてブランコを止めると、俺になにやら期待の目を向けてくる。
「なんですかいきなり、怖いんですけど」
「何も怖がることはないよ~。だってライブのこと聞きたいだけだもん」
まるで俺の心を読んだかのように、ピンポイントで話を振ってくる。
本当に心の中を読んでるわけじゃないよな、渚さん。お金の力で人の心を読める道具でも作ってないだろうな。ありそうな話で怖いぞ。
「ライブのことですか?」
「色々感想は聞きたいところなんだけど、それよりも最重要で一つだけあるんだよね」
「もしかして、渚さんがステージを歩いてこっちに来た時の話ですか?」
「なんで分かるの⁉ 五月くんもしかしてエスパー」
少し身を引き、細い目を向けてくるが、エスパーはどっちだよ! とツッコミたくなる。
「だってあの時……」
会場内の蒸し暑さ、熱狂、照明の輝き、そして、渚さんの姿。思い出しただけで顔が赤くなりそうだ。
「あ、ちゃんと気づいてくれてたんだ」
クスっと意地悪く笑いながら、俺の顔を覗きこむ。
「気づいたって、当たり前じゃないですかあんな堂々と」
「堂々? マイクも切ってたし派手にはしてないつもりだったんだけど」
「距離感がバグってましたよ」
「そうかな?」
会場に居た人は興奮して気づいてないだろうが、渚さんが俺に近づいて来た時の距離は約30センチ。
重低音が鳴り響く会場内で、生声を届かせるなんて距離を縮めて声を張らなければ不可能だ。
変な感覚に陥っていた俺からしたら呟いているようにしか聞こえなかったが、相当な声量を出していたのだろう。
「よかった、聞こえてたなら」
と、嬉しそうにブランコから足を延ばす。
「それよりも、曲の入りの時宣言するのはどうかと思いましたよ僕は」
「えぇぇ~、伝えたい人の本人である五月くんからダメ出し食らった……」
「あれはファンが集まったライブなんですから」
「あれが私なりの絶対に五月くんを落とす告白だったんだけどなぁ~」
あんな盛大な告白をできるのは世界で渚さんしかいないだろう。
それに、ちゃんと思惑通りになっているし作戦は成功している。
自分で認めるのもなんだが、まぁそうだな。完全に落ちたな俺は。
渚さんと気さくに話せるのもそれが理由だろう。
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