第55話 ちょっと話さない?
「今日はこの後超大事な用事があるので帰らせていただきますでは!」
ラーメン屋を出ると、渚さんに絡まられる前に阿比留は足早に俺たち後を去っていった。
逃げ足だけはいっちょ前に早いな。
まぁ怒らせたらいけない人をヒリつかせたら、逃げたくなる気持ちも分かる。
権利力とお金で人も消せそうだからな渚さんは。
「あれ、帰っちゃった」
「帰りましたね」
お店の前に残された俺たちはポツリと呟く。
「五月くんこの後どうする?」
「別に予定はないですけど」
「とりあえず歩こっか」
「……ですね」
特に行く当てのないので、街灯に照らされる夜道を歩きだす。
ラーメンを食べて火照った体に夜風があたって気持ちがいい。
横に居るのが人気美少女アイドルというのも優越感に浸れる。今は変装しているから誰にもバレないのだけれど。
「公園でちょっと話さない?」
通り沿いにある小さな公園を指差すと渚さんは言う。
「何もしないのであれば」
「しないから安心してよぉ~」
もう定番の件になっているやり取りをすると、公園の中へと入る。
小さな公園とだけあって、遊具はブランコと滑り台だけ。あとはベンチが一つと水道があるくらい。
「ブランコとか久しぶりに見るんだけど~!」
子供のようにはしゃぎながら、一直線に渚さんはブランコへと座る。
「僕も最後に乗ったの小学生の時ですよ」
ぶら下がる鎖に手を掛けながら、俺もそっと腰を掛けた。
小ぶりなブランコなだけあって、座る部分も小さければ隣との距離も狭い。
小学生の頃は大きいくらいに感じていたものが、小さくなっているとなんか考え深い。
身に持って成長を感じる。
「うひょ~! 風を感じる~!」
力強く地面を蹴ると、足を器用に動かしてブランコを漕ぎ始める。
「こうゆう時ってブランコは座るだけじゃないんですか?」
「普通乗るでしょ~」
「これではしゃぐのは子供だけですよ」
「私はまだ子供だし~」
「いや俺達もう成人……」
俺は高校生、渚さんは大学生とはいえもう成人を迎えている年齢だ。
子供といえば、まだ子供と言える、大人と言えば大人と言える中途半端な年年齢だ。
とはいっても、それは表向きの年齢だけであって、精神年齢とはかけ離れているが。
「私はもう立派な大人だけど、五月くんは子供ままでいいんだからね~」
と、渚さんはブランコを漕ぎながら声を張る。
「なんでですか」
「そっちの方が貢ぎやすいし、一緒に居られるからに決まってるじゃん」
「俺をクズ男にするつもりですか」
「一生私が養ってあげたい♡」
ダメな生き方をするように誘惑されている。
アイドルに養われるとか最高のヒモ生活だろうが、残念ながら俺はそこまで墜ちてはいない。
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