第52話 初体験
「うわぁおいしそ~!」
丼から上がる湯気を勢いよく吸い込むと、渚さんは思わず声を漏らす。
「この匂いでご飯3杯はいけるわぁ~」
「また太りそうことを――」
「なんですか先輩」
「いえ何でもないです」
確かに、この匂いは何回嗅いでも飽きないし食欲をそそる。もう合法的な麻薬でしかない。
「早速いただきます~って、つきちゃんもう食べてる!」
阿比留はみんなで合わせていただきますをしたかったようだが、
「ろめん……………つうぃたえきれらくらって……」
フライングで麺を口いっぱいに頬ばりながらハっとした顔を浮かべる渚さんが横にはいた。
アイドルらしからぬ食べ方だな。麺を頬張る美少女アイドル、ギャップ萌えで逆に売れそうな予感がする。現に横にいる渚さんがラーメンを食べているビジュアルがよすぎる。
髪を耳にかきあげ、フーフーとレンゲに乗せたラーメンを冷ます。
ギャップからか、直視できないくらいに可愛い。
「家系ラーメン最高~! チーとデイ最高~!」
と、渚さんと真逆にいつもと変わらぬ表情で幸せそうにラーメンをすする阿比留。
こちらはこちらで、ニュースのレポータ―並みにおいしそうに食べるから見ているこっちまでおなかが空いてくる。
「家系ラーメン初めて食べたけど、こんなにおいしいの」
一度箸を置くと、口元をティッシュで拭きながら心を打たれたよう瞳孔を丸くする渚さん。
「美味しいですよねここのラーメン」
「美味しいのもそうだけど、五月くんのおすすめが初めてが一番幸せっ」
「私のおすすめでもあるんですよ? ここ」
「五月くんに初めてを奪われるの……最高っ」
「あ、自分の世界に入っちゃったつきちゃん」
場所関係なく唐突に暴走モードに入るのはやめてほしい。爆弾発言が山ほど出てくる可能性があるからな。
もし誰かに正体でもバレたら洒落にならない。
あとは俺も阿比留も反応に困るからな。
「五月くんは私にいっぱい初めてをくれるからうれしいよ」
ラーメンをパクリと食べながら渚さんは言う。
「意味深な言い方やめてくださいよ。本当に誤解生みますから」
「先輩、まさか初体験まで?」
「ほら、こいつみたいな深堀野郎が近くにいるんで」
言われてドキッとはするが、言うならせめて2人時にしてほしい。
ライブ前に密室で迫られた時なんて心臓が爆発しそうだったからな。
2人きりの時だけに見せる甘えん坊な姿とか素直なところとか、本当に可愛い。
勢いで告白しそうになることが難点ではあるけど、それよりも可愛い渚さんを見たい欲のほうが何倍も強い。
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