第51話 一個上⁉

「渚さん大学行ってたんですか?」


 そうえば、プライベートのことは本名以外何も知らないな。学歴は知ったところでといった感じだが、正確な年齢すら知らない。


「行ったって言っても、入学してすぐに休学したけどね」


 コップの水を飲むと、苦笑する。


「アイドル活動が関係してますかやっぱり」


「そうだね~。大学一年生から一生上がれないかもこのままだったら」


「大学って確か在学できるのは最大8年くらいですよね。期限とか大丈夫なんですか?」


「私まだ一年だよ? 7年間は猶予あるよ!」


「え、大学一年?」


「うん。そうだよ?」


「俺の一個上?」


「今年19歳になるから、うん。そうだね」


「……嘘だろ」


 サムズアップする渚さんに、驚きのあまりに思考が停止する。


 おいおい冗談はそこまでにしてくれよ……まさか一個上の代なんて聞いてなかったぞ俺。


 ずっと20代前半だと思ってたが、まさかここまで既視感がある年齢とは思わなかった。

 どうして一年違うだけでこんなに天地の差がある人生を歩んでいるんだ渚さんは。


「一個上だけど、私バカだから知能的には五月くんの方が遥かにお兄さんだよ」


「それはなんとなく分かります」


 頭がよかったこれまでの行動でボロを出すわけがない。

 ポンコツ具合から大体の知能定数が分かる。逆にバカだからこそ何を考えているか分からないところがあるのが怖いところだが。


「ムーっ……私のことバカだと思ってたんだ」


 納得の表情をする俺に、渚さんはプクリと不満そうに頬を膨らませる。


「まぁ、大体行動で見当はついてました」


「それは関係ない! 普通にまともに学校行ってたのが中学一年までだから勉強がそこで止まってるだけだし!」


「反応に困る複雑な過去をいきなり出さないでくださいよ……」


 これもアイドルや芸能活動で学校に行けなかった同情してしまう悲しい過去だが、急に話を振られてしまうと暗い顔もできない。

 勉強もそうだし、思春期の時にしか体験できない青春をまともに送れなかったのは可哀そうだとは思う。


「勉強に関してはこれから五月くんにバイト終わりにお店で教えてもらえばいいもんね~」


 と、俺の手に抱きつく。


「なんで俺が教えることに?」


「だって、五月くん頭いいじゃん? あとマスターもお店貸してくれるって言ってたし、阿比留ちゃんもちょっと教えてくれるって~」


「勝手に話が進んでるし……さりげなく俺が勉強できることを知ってるのも普通に怖い」

 どこから情報が渚さんの耳に入ってくるのだろうか。

 情報屋でも雇ってるのか。それくらい情報通だし、裏で色々動いている。

 3人でそんな話をしていると、


「ラーメンお待たせしました~」


 豚骨の濃厚な香りが湯気が漂い、ドロッとした油が浮いたスープ、ムッチリとした太麺。

 その上にトッピングが輝く丼が弾着した。

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