第50話 やっぱりこの展開

「こうゆう老舗ラーメン私すごい憧れてたの!」


「やっぱりこの展開だったよクソがっ」


 ラーメン屋の前に着くや否や、感激する渚さんに俺は嘆く。

 予想はついていたが、こうも予想通りの反応をされるとムカつく。


 店主には申し訳ないが、なんでこんな古臭いラーメン屋に目を光らせているんだ。

 アイドルらしくないぞ……それは普段からだけど。


「麺柔らかめ~味濃いめ~油多め~ほうれん草トッピング~」


「もう、なんでもいいですよ――」


 呪文のようにお好みを唱えながら入店する渚さんに、ため息を吐きながら後ろをついていく。


 阿比留と渚さんに挟まれる形でカウンターに座ると、早速注文をする。

 全員、お好みは違うものの、頼んだものは濃厚豚骨醤油ラーメン。


 乳化したスープが絶品な一杯だ。値段も650円とリーズナブルで、トッピングなどしても野口一枚以内で収まる。

 この際、味も気に入ってくれるといいんだが……


「つきちゃん、喜んでくれましたね」


 カウンターに両手を着く俺に、隣からコソっと耳打ちをしてくる阿比留。


「肝心なのは味だろ。まぁ店内みても何も言ってこないから大丈夫だと思うんだが」


「歓声上げてるくらいだから大丈夫ですって~。家系ラーメンの虜になりますよ絶対」


「それはそれで困ることもあるんだよな」


 ことあるごとにラーメンに連れていかれることになったら、俺の精神的な負担も体重も増えかねない。


「初めて来たけど、こうゆう何も気を遣わなくていい雰囲気好きだな~」


 店内を眺めながら言う渚さんであったが、


「これまで一度もないんですか?」


「ラーメンだけじゃなくて、カラオケとかボーリングも友達と行ったことないんだよ。お嬢様学校で大学までエスカレータ―だし、そもそもアイドル活動とかで忙しくて友達もできなかったし」


 どこか寂しそうな表情を浮かべる。

 学校生活とアイドル活動を両立させるのは難しい。仕事をサボることはできないから、友人に遊ぼうと誘われても、仕事が優先になってしまう。


 仕方がないことだが、その生活が続くと徐々に誘われなくなり結果的に友達もいなくなるというわけだ。

 寂しそうな目の理由もよく分かる。


 人には伝わらない苦労をしていたんだよな渚さんは。あまり表に出さないからこそ、我慢強く本当にすごいと思う。


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