第49話 いきつけのラーメン屋
「そんな事より早くラーメン行こうよ!」
青ざめる俺と、羞恥に顔を染める阿比留とは違い、渚さんはにこやかに張り切って拳を上げる。
「先輩、いきなりこってり系が食べれなくなりました私」
「もう体が受け付けないよなこの状況なら」
「でも食べたい……」
「なら食べに行くしかない」
「一口目までの辛抱ですね……あとは脳が家系モードに確変するので」
ゲッソリとした阿比留は、カウンターにうなだれる。
渚さんには敵わない。
全て想像の斜め上を行くから心の準備なんてできない。
今のやり取りで、ライブの時の感動はどこかへ行ってしまった。あんなに輝いて見えた渚さんは、今となっては狂人にしか見えなくなっている。
やっぱ、ステージ上の効果ってあるのだろうか。
「お店ってどこの行くの? 近くに何軒かあるけど」
スマホでマップを開き、近くのラーメン屋をマークしながら言う渚さん。
「僕のいきつけの店がここから歩いてすぐあるのでそこにしようかなと」
「五月くんのいきつけ! これは気になるところ」
「バイト帰りによく行くんですよね。安いし美味しいし」
「バイト終わり……もちろん一人だよね……?」
「はいもちろん!」
声を裏返しながらもしっかりと返事をする。
実際、何回か阿比留と行っているが、それは渚さんと出会う前なのでノーカンだろう。いや、知り合ってからも一回行ったな。
……身の安全のためにも言わないでおこう。
「気を取り直して出発だ~!」
と、先導してお店を出ていく渚さんに俺も続いていこうかと思ったが、
「先輩、本当にあの店行くんですか?」
阿比留に手を掴まれる。
「なんか問題でもあるか?」
「つきちゃん失神しませんかね、あのお店……小汚いじゃないですか」
いきつけのラーメン屋は、外観自体は古くからあるラーメン屋というだけなのだが、お店の中は、油ギッシュで壁や床も汚れている。椅子は破けているものばかりだし、衛生環境がいいとは言えない。
俺は、それもお店の味だと思っている人間だからいいのだが、渚さんが耐えられるかで言ったら少し心配になってくる。
まぁ、ラーメン自体は絶品だから大丈夫だとは思うのだが、店内に入ってくれないとなったら頭を悩ませてしまう。
とりあえずは行ってみないと分からない。
期待してる渚さんには申し訳ないかもしれないが、これが庶民の飲食店だということをこの機会に知ってもらおう。
「この老舗感がいいっ!」とかまさか言わないよな……まさか、な……
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