第47話 色んな意味で
どんだけタイミング悪いんだよ!
しかもなんでラーメンの話を知ってるんだ……まさか盗聴されてる?
その可能性はなくはない。いや、渚さんなら十分あり得る話だ。
もし、ビルの厚いコンクリートの壁越しに会話を盗み聞きできるのなら、異能力者すぎる。
「ちょっと、五月くん? この扉を開けてよ」
「ひぃっ!」
ドア越しに聞こえる、恐怖に満ち溢れた渚さんの声。
「五月くん開けてよ~、ねぇねぇ。私まだ何もしてないよね。私ね、五月くんと話したいことがあるだけなんだ~。だから開けてって~ねぇねぇねぇねぇねぇねぇ!」
コンコンとノックする音がドアを殴る音へと変わり、声も徐々に荒くなる。
ホラー映画展開すぎるだろ……なんか、ライブの時の渚さんが幻想に思えるくらいの変わりようだ。
「先輩、包丁出される前に扉開けた方がいいですよ」
カウンターに身を隠しながら、阿比留はジト目で俺を見る。
「包丁なんて出してこないだろ常人なら!」
「つきちゃんが常人とは微塵も思ったことないですよ色んな意味でですけど」
「……まぁそれは俺もだけど」
「扉に包丁が刺さる前に早く開けてくださいよ! 私も怖いんですから!」
傍観者が何を言ってるんだよ! 当事者の俺が一番恐怖を感じてるわ!
でも待てよ?
この件の発端はラーメンを誘ってきた阿比留だ。俺はただ先輩として承諾しただけで悪くはないはず。
多分、こう言い訳したとしても断らないのもおかしいと詰められるんだろうけどな。
「い、いらっしゃいませ」
これ以上事態を悪化させたくない俺は、早めに謝罪でもしようと苦笑しながらもお店のドアを開ける。
「あ、やっと開けてくれた♡」
開けた瞬間に見えた修羅の顔から、満面の笑みに一瞬で切り替わる。
「もうお店閉めるんですけど、一杯コーヒー飲んでいきます? ……って今バッグに何をしまいました?」
「五月くんは気にしなくて大丈夫だよ。コーヒーはいいかな、それよりもラーメンの話をしようよ♡」
鋭利で鏡面の何か見えたのは気のせいだろうか……いや気のせいであって欲しい。
そうだ、渚さんは手鏡をしまったんだ。そう思っていた方が精神的に楽になる。
「それで? 五月くんは阿比留ちゃんと2人でラーメンに行こうとしてたんだ?」
俺の肩に手を添えながら、お店の中へ入っていく渚さん。
「お店も早く閉まるので、誘われたから行こうかなと」
「へぇ~? 阿比留ちゃん懲りない子だね~」
「ひえぇっ!」
カウンターに隠れている阿比留に鋭い視線を向けると子犬のような甲高い声を上げる。
一体、渚さんに何をされたんだ阿比留は……知りたくもないけど。
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