第46話 ラーメン行きません?
「今日は早めにお店閉めようか。もうお客さんも来なさそうだし」
カウンターでコーヒーカップを拭きながら、店長は俺達に声を掛ける。
「ピーク過ぎましたからね、このテーブル片付けたらもう作業もないですし」
「えぇ~、お金もっと稼ぎたいですよ私~」
「お給料はラストまで入っていたことにするから大丈夫だよ」
「いいんですか?」
「五月くんはこれからお金を使う機会が増えそうだしね」
クスっと笑う店長に、俺は小首を傾げる。
俺が個人的にスター☆ブライトのライブでも行くと思っているのだろうか。
阿比留に誘われたら行くかもしれないが、単独で行くかと言われたら行かない。
それに、今日みたいにバイトも手に付かずの状態になるのはもうごめんだ。
「そうゆうことなら、先輩この後ラーメン行きません?」
横で既に制服のエプロンを畳んでいる阿比留。
「ラーメン、ありだな」
「こってり豚骨がいいです私」
「さっぱりしたの食べたい気分だけど……今日はお前に従ってやるよ」
「バイトで散々迷惑掛けましたからね私に」
「店長にもごちそうしたいくらいにな」
自分でもびっくりするくらいに異常だったからな。お給料を貰っている分、しっかりと働きたいし、働いているつもりであったが、今日は本当にダメであった。
バイト代も貰っていいのか心配になるくらいに仕事をしてなかったからな。
まあ、サボっていてもこの店はお金が発生するから貰えるものは貰っておこう。
「麺固め~味濃いめ~油少なめ~味玉トッピング~」
「家系ラーメン行こうとしてるなお前」
「今日は太麺をすすりたい気分なんです私」
「また太りそ――」
「なんか言いましたか先輩?」
「……なんでもない」
殺気が溢れ出る笑顔を向けられた俺は、冷や汗を掻きながら顔を逸らす。
危ない危ない。阿比留の前で体重のことは禁句だ。
とはいえ、ライブの後からちゃんと俺に食事の写真を送ってくるし、カロリーも計算しているらしい。
いくら太ったと言われても、それをバネにしてダイエットしているのは偉い。
本当ならラーメンも行かない方がいいのだが、チートデイと言うことにしておこう。まだ数日早いけど。
「俺、看板裏返してくるわ」
お店のドアに掛けられているOPENの看板をCLOSEにしようと、店前に出ようとする。
すると突然、カランとベルの音を立ててお店のドアがゆっくりと開く。
お客さんか? と思った俺であったが、
「家系ラーメン? 阿比留ちゃんと2人で行こうとしてたの? 私前にも言ったよね、2人で出かけるのはダメって……もしかして五月くんはその約束を忘れてたの……?」
ホラー映画のようにドアの隙間から顔を覗かせ、ボソボソと呟く渚さんの姿が見えた瞬間、背筋が凍り、そっと俺は少し開いたドアを閉めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます