第42話 全力で楽しむ
「一曲目! 『ユニバーサル』!」
ポップなイントロが流れるとともに、ファン達の歓声がどこからともなく上がってくる。
センターはもちろん渚さん。
そしてその横には、サブリーダーである栞さん。渚さんとタッグを組む形でサポートをしていた。
「この世界の侵略者~♪ 彼方の星からやってきた~♪」
スター☆ブライトが人気な理由が分かる。
ズレ一つない洗練されたパフォーマンスに、渚さんの圧倒的歌唱力。
それだけじゃない。
モニターに表示されるメンバーそれぞれのライブ映像のカメラワーク、照明に音響。
全てがプロの所業だ。
縁の下の力持ちである裏方も含め、スター☆ブライトのライブはこれほどまで人気なのか。
「キュートな拳銃バッキュン♡」
「「「「ズッキュン」」」」
「愛の弓矢で打ち抜く♡」
「「「「つきちゃ~ん!」」」」
サビに合わせてアイドルコールをするファン達。
ファンの治安の良さも、スター☆ブライトが人気な理由なのか。
中途半端なアイドルのファンの間では、同担拒否やマナーの悪さなどで問題になることがあるが、スター☆ブライトでは聞いたことがない。
「君にバッキュンズッキュン打ち込んで~♪ 虜にしてあげるの~♪」
「「「「「フゥフゥ~!」」」」
最初は周囲の熱量に困惑していた俺であったが、徐々に体が小刻みにリズムを感じ始める。
会場に呑まれるというより、スター☆ブライト。いや、渚さんの歌声に吸い込まれるような感じだ。
「先輩もほらペンライト持って!」
ステージの上を眺めていた俺に、阿比留はペンライトを握らせてくる。
「いや流石にこれ持ってやるのはな……」
「こんな時に羞恥心なんて持ってたら全力で楽しめませんよ⁉」
「いやそうじゃなくて……」
渚さんに見つかったらあとから問い詰められそうで嫌だから。
目を輝かせて「ライブ楽しんでたよね? ね? ね⁉」と言われること間違いなしだ。
「せめて座って全力でペンライトを振るよ」
渡されたペンライトを持つと、椅子に浅く座る。
「声は思いっきり出してくださいよね」
「声が枯れない程度には出すよ、多分」
「コールとかは私が教えますから全力ですよ!」
「分かったよ」
誰よりもライブを楽しんでいる阿比留に、俺は小さく笑う。
ライブは楽しんでなんぼだ。この状況なら何もしないで突っ立っている方が悪目立ちして恥ずかしい。
スーッと深呼吸をした俺は、ペンライトを全力で振り、歓声を上げるのであった。
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