第41話 ライブ開始

「そんな事よりもう始まりますよつきちゃんのライブが! はぁぁぁ盛り上がってきたぁぁぁ!」


 テンション高くペンライトを振り回す阿比留。


「まだライブ前だし、場違い行動はやめろ」


「なんでですか? ライブでは発狂してなんぼですよ?」


「それは一般席での話だろ?」


 俺は周囲を見渡す。

 席に座っているのは、パソコンを開いてカタカタとキーボードを打つスーツ姿の人しか見当たらない。


 一組だけほのぼのしく親子で来ている人がいるが、この人たちも関係者なのだろう。メンバーの親族とか。

 俺たちはただの渚さんの主権で入っただけの部外者だ。

 はしゃいで注目を浴びたら最悪な状況を招かねない。


 今だって、阿比留の行動を冷ややか目で見られているというのに。

 もう早速注目を浴びてしまった。幸先悪すぎるだろ……


 しかも『なんだこの若者2人は』とヒソヒソ話までされている。明らかに不自然だからな、見るからに一般人がこんなところに居たら誰だって不思議に思う。静かにしてたならまだいいが、阿比留みたに騒いでいたら尚更だ。


「早くつきちゃんとしおりんを拝みたい」


 声のボリュームを下げ、噛みしめるように言う。


「くれぐれも声はそのまま頼むな」


「流石にライブ始まったら無理です、興奮が抑えられません」


「抑えろよ? もう目立ちたくないんだ」


「ライブなんて爆音なんですから、私が騒いだところで誰も気づきませんよ」


「自制できるのが人間のいいところだろ。それができないなら低能サルだぞ?」


「このライブの時だけは私はサルでもいいです」


 うん、阿比留に何を言っても無駄そうだな。

 周囲が気になるところではあるが、俺も考えすぎなのかもしれない。

 ライブは楽しむために来る場所だ。なのにパソコンをイジっているなんて逆におかしい。


 本来の楽しみ方をしている阿比留の方が正しいのかもしれないな。

 まぁ、それは一般席での話にはなるけど。


『スター☆ブライトライブ講演! 「でぃすとぴあ♡ くりすたる☆」開始まであと30秒!』


「先輩来ましたよ!」


「分かってるっての」


 渚さんの声でアナウンスが流れると、ステージの後ろにある巨大モニターにカウントダウンが表示される。


「ふぉぉぉ~!」「始まるぞぉぉぉ~!」「スター☆ブライト愛してるぅぅぅ~!」


 ファン達の熱にも火が付き、会場は一段と盛り上がりを見せた。


「さぁさぁ! 私たちの登場まで~ 10! 9! 8! 7!」


「「「「6! 5! 4! 3! 」」」」


 渚さんのアナウンスと一緒に、ファン達も一丸となってカウントダウンを始める。

 阿比留もペンライトを振りながら参加していた。


「「「「「2! 1!」」」」」


 刹那、会場が暗転する。

 そして、一気に目がくらむような光に会場が包まれると、ステージの上にはスター☆ブライトがポーズを決めていた。


「スター☆ブライト! 会場をロックオン!」


「うおぉぉぉ!」「つきちゃん最高ぅぅぅぅ!」「スター☆ブライト神!」


 センターに居る渚さんが拳銃をポーズをファンに向けると、ファン達の熱狂は会場内に響き渡った。


 隣の阿比留も叫び散らかしているがその声はかき消されて、俺にさえ微かにしか聞こえない。


 スター☆ブライトのファンの熱量が違い過ぎる。

 洗練されたヲタクの集まり。会場が一丸となってペンライトを振り、ライブ会場自体が煌びやかな光景であった。



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