第35話 自己中リーダー
「って、こんなことしてる場合じゃないの私たち! あと10分後に最終打ち合せがあるから早くこの2人を案内して私たちも移動しないと!」
腕時計を見ながら、落ち着かない様子で足踏みをする栞さん。
ライブ当日が忙しくないわけないもんな。
準備や会議に加えて俺たちの案内まで自分たちでやるのは荷が重いだろう。
マネージャーにでも頼んでくれてよかったのだが、多分それは渚さんが許さない。
「そうだった!」
目を大きく開けると、渚さんはせわしなく体を動かす。
「ほら早くいくよ! 2人も私についてきてちょうだい」
「分かりました」
小走りをする渚さんと栞さんに、俺と阿比留もついていく。
その際、廊下でスタッフを思わしき人とすれ違うたびに、変な視線を向けられているような気がする。
それはそうか。今日の主役のアイドルと一緒に行動している謎の男女2人。事情を知らなかったら目で追ってしまうのも分かる。
「あ、でもちょと待って!」
急に足を止めると、渚さんは俺たちにそう声をかける。
「今度は何? 変な用なら後にしてくれる?」
「これは大重要事項だから、私にとっての」
「今、渚の私用なんてどうでもいいの! いつも言ってるでしょ? みんなに合わせるのが優先事項だって!」
こうゆうことは日常茶飯事であるらしい。栞さんのヒリつき具合がそれを物語っている。
時間にルーズで自己中なリーダー。相当手が掛かっていそうだ。
本当にこれをリーダーと呼んでもいいのだろうか?
もういっそのこと栞さんをリーダーにした方がいいと思うんだけど俺的には。
ストーカーはするし、行動や言動が頻繁におかしくなるし、そんなリーダー俺だったら嫌だな。
とはいえ、はやり世間からの評価には逆らえないのだろう。
「五月くんと大事な話するから先行ってて! 会議には絶対遅れないから!」
「毎回それで遅れてるんだけど?」
「ホント! すぐに終わらせるからお願い!」
「信じられないんだけど?」
「リーダーである私を信じてよ!」
両手を合わせて懇願する渚さんであったが、栞さんは呆れた様子でそれを見ていた。
信頼までないのかよこのリーダー。
この流れはどうせ遅れて行って怒られる典型的なパターン。
俺まで呆れてくるのだが、それよりも、なんの話があって俺と2人になりたいのかが一番気になる。
不安しかないぞ?
このまま栞さんが折れないで渚さんを無理やりにでも連れて行ってくれたらよかったのだが、
「あぁ~! 分かったから早く済ませてよね!」
と、頭を掻きながらも許可を下ろした。
「ありがと! 今度ブランド物買ってあげる!」
「それよりも時間を守ってほしいよ私は!」
栞さんからしたら切実にそう思うのだろう。
メンバーの中で一番苦労人だろうな。
渚さんに振り回される点が、どこか俺と重なるところがあって同情してしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます