第31話 カバカバアイドル

 カフェに3時間ほど滞在し、その後すぐにライブ会場に足を運んだ。

 既に会場の周りには『スター☆ブライト』のグッズを山ほど持ったファンが溢れ、まだかまだかと開演を待っていた。


 早く着いたからと言って暇というわけでもなく、俺は阿比留のグッズ購入に付き添っていた。


 長蛇の列に並び、諭吉を2枚軽々と払う。そしてまた違うグッズを販売している列に並ぶ。


 これの繰り返しを永遠としている。

 熱狂的なファンの行動力は凄まじいよホント。まぁ俺たちも大概ではないけどな。


「いやぁ~いっぱい買ったねぇ~私!」


「……自分で買ったものは自分で持てよ」


 満足げな顔を浮かべ、右手に渚さんのデコ団扇、左手にはペンライト2本を持ちながら仁王立ちをしていた。


「私の手はもう塞がってるので先輩が持ってください~!」


「その手に持っているものは今必要ないだろ? バッグにしまってそのまま自分で持て」


「今からライブでやるコールの練習するから無理です~! 今日の私はヲタクなので!」


「この似非クソヲタクがよ」


 舌打ちをしながら、手に持っているバッグを持ち直す。


「しかも、前乗りしてって言われたから俺たちそろそろ行かなきゃ時間やばいんだぞ?」


「あ、もうそんな時間?」


 ハッとした顔を浮かべると、腕時計をひょっと見る。


 カフェに居る時に、ポンと渚さんからメッセージが飛んできた。『なんか色々入るのに必要らしいから早めに集合して!』


 なんだよ色々って。想像するだけで怖いんだけど。

 その恐怖の理由も後数十分後には分かってるから、もう運命に従うしか他ない。


「場所どこだっけ」


「裏に行けば渚さんが居るはずなんだけど……いないな」


 人気のない会場裏の歩道を歩く俺たちであったが、一向に渚さんの姿が見当たらない。


「忙しいのかな?」


「流石多忙アイドル様……」


「お店には頻繁に来るのにね」


「やめてあげろよその皮肉」


 ちゃんと仕事をしているのはいいことだろうが。仕事をサボってお店に来ていることもあるだろうから俺からしたら安心安心。


 サボりまくって干されたら芸能界は生きていけないからな。

 とはいえ、渚さんは何をしてもこの業界には必要不可欠な存在だからそれはありえない。干されるなんてまずないだろう。


「2人ともこっちこっち~!」


 ガシャンと遠いところから扉の開く音が聞こえると、サングラス帽子マスクの犯罪者のような恰好をしている渚さんは周りを警戒しながらもこちらに手を振る。


 いくら変装したって声でバレるだろ。

 見た目だけ変えて警戒したって、声を聞いたら気づかれてしまう。

 警戒心カバカバすぎる。

 歌声だけじゃなくて地声も美声なんだから、ファンだったらすぐに分かりそう。


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