第30話 チートデイということで……

「てゆうか先輩……私のそんなとこ見てたんですか……」


ギロッっとまるで犯罪者を見るような目で俺を見てくる阿比留。


「バイトしてると目に入るんだよ。事あるごとにエプロンの位置を直したり、お腹とお尻周りを気にしてるお前の姿が」


そこに付け加えて『明日からダイエットする』とか『またちょっと太った……』などとボヤいているし。

店内だってそこまで広くないんだ。

見たくなくてもその姿が視界に入ってしまう。


「……っ先輩そんなところまで見てたんですか⁉ きっっしょ変態! さいてー! 後輩をエロい目で見るとかセクハラ過ぎます!」


自分の胸を両手で隠し、こちらを睨んでくる。


「だから意図的には見てないっつーの!」


「嘘! 最近妙に先輩から視線を感じると思ったらそーゆーことですか! 私に欲情してたんですか⁉」


「誰がエプロンだけじゃなくて、お尻の方までパツパツになってるお前に欲情するかよ」


「……っ!」


図星なのか、お尻の方を気にして触り、赤くなりながら小さく萎む。

ぶっちゃけて言うと、正直少し見てしまっている部分はある。


バイトの制服、案外ピチッとしているんだよな。ミニスカ気味だし。

童顔で小柄な阿比留だが、ちゃんと大人の体をしているため、制服からでも目立ってしまう。


そりゃー俺だって思春期男子だ。見てしまうものは見てしまう。男の本能ってやつだ。

まぁそう思っていることを包み隠さずに『お前の体ってエロいよな』とか言うと性犯罪になり兼ねないので内に秘めておくが。


「今日ダイエットしますから! ちゃんとカロリーとかも計算して記録もつけて!」


涙目になりながらも俺に宣言する。


俺に宣言して何になるんだよ。しっかりとダイエットをしているかの監視役になれとでも言うのだろうか。


「んじゃぁ、今日のパフェは無しにしてブラックコーヒーで我慢しておくか?」


「……そうします」


「俺はこのヘーゼルナッツソースがかかったパンケーキでも頼もうかな~」


「うぐっ……」


「それじゃ、決まったことだし注文するか」


メニューをテーブルの端に置き、呼び出しベルを押そうとするが、


「やっぱ明日から……」


俺の手にを上から抑えると、ポツリと呟く。


「ダイエットは明日からにします……それか今日はチートデイということで」


「さっき言ってたイチゴパフェ?」


「ⅬⅬサイズでお願いします……」


「正直でよろしい」


後からブツブツと言われるより、こう素直に言ってくれる方が助かる。

愚痴を聞かされるのは俺しかいないんだからな。


「明日からサラダチキンとハーブティー生活かぁ……先輩、私を見張っててくださいね」


「バイト先でつまみ食いしないように見ててやるよ」


メニューから目元覗かせ、可愛げな表情を浮かべるに俺は苦笑いをする。

こうして阿比留は誘惑に負け、数分後に1500キロカロリーの特大イチゴパフェをなんとも幸せそうな顔で頬張るのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る