第29話 太ってませんから!
「甘いものは別腹なんです」
プクリを頬を膨らませると、そっぽを向いてしまう。
「別腹ね~」
と、俺は対面に座る阿比留をじーっと眺める。
「な、なんですか」
その視線に気づいたか、阿比留は不審な目を向けてくる。
「いやなんでも?」
「先輩のその目は何か言いたげな目です」
「なんでか、お前にはお見通しのようだな」
確かに言いたいことはある。けど、これを阿比留本人に言ってしまうと確実にブチギレられてしまう。
なんせ女子に言ったら失礼極まりないことだからな。
「言ってください! 言ってくれなかったら今日奢らせますよ!」
「それはヤダな……」
女子に対して失礼なことを言うのか、奢るのかで言ったら、俺は前者を選ぶ。
女子を傷つけないという変なプライドなんてないからな。
それに、今回キレられたとしても、根本的な問題は阿比留にあるから俺は悪くない。
ただ伝えてあげたというだけだ。
「別腹とか言ってるけどさ、そんなんだからバイトの制服のエプロンキツくなるんじゃないのかーって思っただけだぞ俺は」
仕方なくはぁっとため息吐きながら言う。
「なっ! なんでそれをっ……!」
お腹周りを押さえながら、ビクっと体を震えさせる阿比留。
「この前ため息吐きながらボヤいてただろ自分で。『最近食べすぎで2キロくらい太っちゃった』って」
「わ、私がいつ先輩の前でそんな事言いましたか⁉」
「カウンターで座って遠い目をしながら呟いてただろ」
「先輩が横に居る時に⁉」
「いや、俺はたまたま通りすがって小耳に挟んだだけ」
「はぁぁぁぁぁぁ⁉」
羞恥に顔を染め、頭から勢いよく湯気を噴き上げると、俺の方に前のめりになりながら怒鳴る。
「だから言わない方が言っただろ?」
身長はそこまで気にしないものの、体重というワードは女子には禁句。
それも阿比留のようなスタイルを気にしているような人に言ったら尚更だ。
「別に太ってませんから! ちゃんとダイエットもしてますから!」
俺の目を涙目で見ながら必死に弁解をする。
「太ってるなんて言ってないだろ俺」
「平均よりちょーっとオーバーしちゃっただけで、というか、女子は平均より上が普通みたいなとこあるし……とにかく! 全然太ってるとかじゃないですからね⁉」
「別に俺は一言も太ってるなんて……」
赤面する阿比留に、俺は困った顔をする。
むしろちょうどいい体系だと思うんだが。男子の理想の体型と言っても過言ではない。
男子というものは痩せすぎというよりも、少しばかり肉付きのいい女子の方が好きな傾向にある。
少なくとも俺はそうだからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます