第26話 帰ります!
「ホ、ホテル⁉」
想像もしていなかった言葉に、ついオウム返しをしてしまう俺。
なんでいきなりホテルの話になっているんだ? というかなんで渚さんは阿比留が俺をホテルに連れていく前提で話をしてるんだよ!
妄想もいいところだ……
「お前もそう思うだろ――」
と、阿比留の方を見るが、
「そ、そんじゃないし~……」
顔を赤く染め、体をもじもじとさせていた。
一体それはどっちの反応なんだ……本当に行くつもりだったのか、はたまたホテルという単語に顔を赤くしたのか。
「私付いてく」
考えている俺の横で、ボソリと渚さんは呟く。
「……渚さん?」
「私、五月くんに付いていく!」
「仕事は?」
「そんなの休む! 仕事なんてどうでもいい!」
「ライブの練習もあるんじゃないんですか」
「あるけど! ライブよりも五月くん優先!」
「そのライブに俺たちも行くんですけどね……」
自分からライブに誘っておいて、そのライブの練習をサボるとか破天荒すぎる。
それについて来られたら、また俺がストーカーされるかもしれない。
「今日はいいの! 一日くらい仕事サボったって取り戻せるもん!」
ジタバタと子供のように駄々をこねる渚さん。
まためんどくさいことになりそうだ。
早く家に帰りたい……バイトもろくにしていないのに、変に体が疲れてる。
「私帰ります」
次は、静かにしていた阿比留が呟く。
「私が居ても迷惑だろうし帰ります」
「え、帰るの?」
「阿比留ちゃんは一人で帰ってくれるの? 五月くんには何もしない?」
一緒に帰らないと分かると、パァっと渚さんは嬉しそうな表情を浮かべる。
「元々今日は何もする気ありませんし! 今日は一人で帰りますから!」
「今日はってことはこれから何かがあるかも――」
「さようなら!」
渚さんの言葉を遮り、声を張ると、そのまま逃げるように小走りで帰ってしまった。
なんであいつは不機嫌なんだ? 変な言いがかりをつけられたらだろうか。
「よし! 今日はお仕事頑張れそう!」
阿比留の走り去る姿を見ると小さくガッツポーズをする渚さん。
「私帰るからじゃあね! また明日ここになんとしてでも来るから!」
「あ、はい……」
阿比留に続いて、渚さんもスキップをしながら帰ってしまった。
お店の前に一人になる俺は、体の力が抜け、疲れがすべて籠るため息を吐く。
渚さんも阿比留も、これから2人は極力話をさせないようにしよう。
じゃなきゃ、今日みたいに俺まで巻き込まれる。
もうこんな面倒事はごめんだ。
「帰って寝よ」
2人に続いて俺もそう呟くと、トボトボと帰路につくのだった。
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