第25話 敵に回すと怖いアイドル

 いきなりなんだ⁉ 怖い怖い怖い!

 なんで早口で手を掴まれても恐怖しか感じないんだが⁉ 


「ちょ、力強いですって」


 それに掴まれている手の握力が尋常じゃないし。

 蒼白とした顔に光の灯っていない瞳。絶望したような表情だ。


 ……マジで怖い。一瞬身の危険を感じた。今すぐにでも走って逃げたいのだが、そうでもしたら後から恐ろしいことになりそうだからやめておこう。


「つきちゃん大丈夫ですって~。さっきも言いましたけど私たちの間になにもないですから~」


 渚さんの言動に引いたが、引きつった笑顔のままいう阿比留。


「当人に言われても信用できるわけないじゃん! 私は五月くんに私を心配させる行動を取らないでほしいの!」


「一緒に帰るってだけで何もあるわけじゃ……」


「ねぇ……五月くんまで私にそんな事言うの? そんなに私のことが嫌い? 私こんなに五月くんのことを思ってるのに……それなのに違う女の子のところ行っちゃうの! なんでなんで私に悪いところがあるなら直すからちゃんとするから!」


 過呼吸のまま言葉を重ねる渚さんを見て、俺と阿比留は顔を合わせる。


(ちょっとこれどうするんですか!)


(どうって言われてもなんもできないだろ!)


(なんとかしてくださいよ!)


(俺に何をしろと!)


(そんなの自分で考えてください!)


 口パクでそうやり取りをするが、俺は一体何をすればいいんだよ。

 とりあえず考えられる案は、渚さんを落ち着かせることを言うことだ。この場くらいはしのげるだろう。


「渚さん、僕は何もしませんよ。渚さんが心配するようなことは絶対に何もしません」


 顔を覗き込みながら言うと、


「……ホント?」


 頬に数滴雫を垂らし、鼻を啜りながら俺の顔を見上げる。


「ほ、ホントですよ。誓います」


 危ない、渚さんの可愛さにやられるところだった。

 こんな奇行をしているけど、容姿は絶世の美少女なんだ。不意にあんな可愛い顔で見られたら誰だってドキッとする。


「五月くんがそう言うなら……信じるよ私」


 涙を拭うと、俺の手を握りながら言う渚さん。


「安心して信じてください」


 この場を収めた安心の方が大きいけど……

 これから言葉を慎重に選んで使わないとこの二の舞になりかねない。渚さんと居る時は気を遣わないとな。


 疲れるけど……メンヘラアイドルを敵に回すよりかは幾分マシだ。


「ところで、何をそんなに心配していたんですか? 阿比留との話ならお店の中でもしたと思うんですけど」


 阿比留との関係はテーブル席の時にしたはずだ。それなのにまた同じようなことを心配している。

 そこが疑問点だ。


 そんな俺の問いに、プクリと頬を膨らませた渚さんは、


「阿比留ちゃんにそのまま五月くんをホテルに連れ込まれたらたまったもんじゃないもん」



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