第24話 2人で帰るの?

「あ、私そろそろいかないと」


 腕時計を見ると、ハっとした顔を浮かべる渚さん。

 時刻は夜の7時半。お店もそろそろ閉店する時間だ。


「それなら、俺たちも帰ります。お店もうすぐ閉まるので」


「ご飯食べ終わったしいいんじゃない?」


 テーブルの上にあったものは綺麗に食べ終え、お皿はカウンターへと阿比留が下げた。


「はぁ……もっと五月くんと一緒に居たいのにこれからお仕事かぁ」


 はぁっとため息を吐きながら言う渚さんに、


「今から仕事なんですか?」


 と、俺は聞く。


「そうなんだよぉ~。動画の撮影と会議とライブの練習……もう多忙すぎてヤダ……」


「ここに来てる余裕ないんじゃないですか?」


「私は五月くんと一緒に居れるなら仕事なんていくらでもサボる!」


「まさか本当は今も仕事だった――」


「それは違うよ! ちゃんとオフの時に来てるから安心して⁉」


 よかった。サボって来ていたならマネージャーか偉い人に目の前で電話越しに謝罪させるところだった。


「私も明日バイトだ……死にたい」


「仕事の量が違うだろ。それに今日サボれたんだから明日くらい頑張れ」


「まぁつきちゃんのライブに無料で行けるからモチベーションはありますよ? 今は」


「やる気を継続させてくれ」


 かたがバイトで文句を言うな。しかもこんなにも仕事が楽なのに。こんなのでボヤいていたら社会に出たとき絶望するぞ。


 そんな会話をしながらも、俺たちは荷物をまとめてお店を出る準備をする。


「店長お疲れ様です」


「明日もよろです~。今日はゴチになりました!」


「マスタ~! また来ますねぇ~!」


「気を付けて帰るんだよ」


 俺たちは店長に軽く会釈をしながら、お店の扉をくぐる。


「うわさぶっ」


「最近冷え込むな~」


 夏が終わったばかりだというのに、陽が落ちると半袖一枚では夜は肌寒く感じる季節になってきた。


「それじゃ、お仕事頑張ってくださいね」


「つきちゃんライブ楽しみにしてます!」


 渚さんにそう声をかけ、家路につこうとするが、


「え? ここでお別れなの?」


 ポカンとした顔を浮かべる。


「渚さん、タクシーとか使いますよね」


「まぁそうだけど」


「俺たち歩きなんで、ここで解散ですよ」


「阿比留ちゃんと2人で帰るの?」


「家の方向が一緒なので、はい」


「……」


 俺の言葉に、一瞬にして渚さんの顔が曇る。

 そして、俺の手を力強く掴むと、


「ダメ……ダメダメダメダメダメ! 阿比留ちゃんと帰るなんて絶対にダメだから! というか女子と夜道を一緒に歩くとか私が許さないから私の許可もなく女の子と2人になるとかあり得ない……ヤダヤダヤダヤダヤダヤダ!」


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