第21話 全部悪いんだもん
「……お、泣き止んでる」
数分後、俺が席に戻ると、阿比留は既に落ち着きを取り戻していた。
「でも、なんで渚さんに抱きついてるんだよ」
苦笑する俺が見るのは、渚さんの胸に抱きつき、ぐすりと鼻を鳴らしている阿比留の姿。
「だって……つきちゃんが全部悪いんだもん」
「泣かせるつもりはなかったんだって~。ごめんね?」
「……許さないけど許す」
「いやどっちだよ」
その光景に、つい俺はツッコんでしまう。
俺がトイレに行ってる間に何があったんだ。この短時間であんなに暴れている阿比留をどうやって丸め込んだんだ渚さん。
まさか金か? 金なのか?
それにサラッとつきちゃん呼びしてるし……とりあえず修羅場は終わったということでいいよな?
「阿比留くん、君はバイト中なんだから働いて欲しかったんだけどな」
店長はサッとこちらに来ると、テーブルに頼んでいた品を置く。
「今日はもうつきちゃんに甘えます。閉店作業はするのでご安心を」
ムスーっとまだ不機嫌そうな顔を浮かべる阿比留。
「閉店作業は私がやっておくよ。それみんなで食べたら今日は2人ともあがりなさい」
「店長神ぃ~」
「あの、僕もバイト中なんですけど。ていうか締め作業なら僕します」
「三岳くんのは仕事のうちだよ。今日は上がっていいよ、そんなにすることもないから」
本当になんて自由なバイトなんだここは。
従業員を先に帰らせて自分は仕事をする。
タイムカードを切るまでは時給が出ているというのに、阿比留までここに居ていいと言う。
もう、俺店長が色々な意味で怖くなってくる。
「サンドイッチとフライドポテトは私のサービスです。阿比留も居るので皆さんでつまんでください」
テーブルの上には、俺と渚さんが頼んだものとは別に、ミックスサンドとフライドポテトが置かれていた。
「マスターいいんですか?」
「はい。是非召し上がってください」
「店長……ホント何から何まですみません」
「いいんだよ。君たちはしっかり働いてくれているし、それに――」
店長はそっと俺に顔を近づけ、
「今日はいいものを見せてもらったからね。これは私からの些細なお礼だよ」
クスリと笑いながら耳打ちをしてくる。
しっかりと働いてはないと思うんだけどな……俺はともかく阿比留は特に。
いいものって……まぁ店長からしたらカウンターに立っているだけで目の前ですごい光景が広がっているんだもんな。作業はしているものの、色々な物事は見えるし聞こえる。
面と向かっては言えないが、こんな面白いことを無料で見れるんだ。少しのサービスくらいしてもらって当然。どちらかというと給料を上げてほしいけど。
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